こんにちは! 8月4日夕方に起こったレバノン・ベイルート大規模爆発の影響を受けた人びとを支援するため、8月7日から[ご寄付のお願い]レバノン・ベイルート大規模爆発 緊急救援を立ち上げさせていただいておりましたが、9月9日までに100万円ものご寄付が集まっております。本当にありがとうございます。
8月31日、大切なご寄付を使わせていただき、爆発の被害を受けたベイルートのアシュラフィーエ地区の150世帯(約750人)に食糧と衛生用品を届けることができました。
レバノンでは、2020年7月の食糧価格が、昨年10月比で4.36倍に高騰[1] した一方で、新型コロナウィルスの影響によるロックダウンや経済危機により収入が途絶えた人が多く、2020年5月時点でレバノン人口の55%以上が貧困層に陥っていました[2] 。更に、8月4日の大規模爆発以降、少なくとも70,000人が職を失ったとされています[3] 。食糧を買うのも、家を直すのも、新型コロナウィルス対策のマスクや消毒液を買うのも難しい人びとが大勢います。
今回、物資配布を行ったアシュラフィーエ地区は、爆発地点より1~3キロの地域にあり、爆発地点よりは少し離れていますが、爆発により窓ガラスや窓のサッシ、ドアも壊れるような被害を受け、多くの方が負傷されました。しかし、どうしても爆発地点により近い場所への支援が優先され、支援を必要としているのに受けられていない人が存在していました。そこでパルシックは、頂いたご寄付で支援の行き届いていないアシュラフィーエ地区に支援物資を届けることにしました。
配布は炎天下の中、汗を流しながら、新型コロナウィルス感染予防のためマスクとゴム手袋を付けながら行われました。レバノン人やシリア人、アフリカ系の移民労働者と思われる女性など、国籍を問わず支援を必要としている人びとへ、米やパスタ、ひよこ豆、レンズ豆、トマト缶、ツナ缶、植物油等の入った食糧バスケットと、マスクや消毒液などが入った衛生用品バスケットを配布しました。配布を受け取った人や、配布を仕切って頂いた地域のまとめ役、また提携団体のスタッフより、日本の皆さんへの感謝の言葉を頂きました。
①レバノン人女性
レバノン人の60歳程の女性に話を聞くと、「爆発で部屋の窓やドアの多くが壊れたの。本当は賃貸アパートだから大家が直すのが筋だけど、大家からは『お金を出せない』と言われ、自分で修理するしかない。寝たきりの母の介護をする必要もある。でも、以前は裁縫の仕事をしていたけど今は全く仕事が無いし、同居する兄弟にも収入が無いわ…」とのことでした。
女性は、話している最中に近寄ってきた子どもに対し、「盗み聞きしないで!」と追い払っていました。女性は身なりもしっかりしており、元々は中流家庭に属していたのかもしれません。しかし、昨年10月からの経済危機で中流家庭の割合は57.1%から39.8%に減少し、貧困世帯が27.9%から55.2%へ倍増しました[4] 。提携団体によると、期せずして自分が支援を受ける側になってしまったことに戸惑い、恥だと考えるレバノン人も多いといいます。しかし、人道憲章[5]で「尊厳ある生活への権利、人道支援を受ける権利、保護と安全への権利」が定められている通り、そうした権利のために人道支援を受けることは人間として当然の権利です。また、私は、好き好んで支援を受けるために生きている(生きてきた)人はいないと思います。「あいつらは物乞いや難民をビジネスとしてやっている。自己責任だ、怠け者だ。」という言葉を聞くことがあります。しかし、物乞いをするために生きてきた、というよりも、その人がたまたま置かれた社会・経済・政治状況、家庭環境など、自分ではどうしようもない力により、そうせざるを得ない状況に追い込まれていった可能性はないでしょうか。社会や政治が問うべきは、個人の責任というよりも、その人をとりまく環境ではないでしょうか。
②シリア難民の家族
「こんにちは」と日本語で挨拶をしてくれた13歳の少女、ヒバちゃんとその兄弟2人について行くと、シリア危機でアレッポから8年前にレバノンに逃れてきたという、シリア難民の家族にもお話を聞くことができました。一家が暮らす部屋はアパート1階の管理人室で、小さなキッチンに小さなバスルーム、そして3畳ほどの三角形の部屋と1畳ほどの玄関があります。家族構成を聞くと、お父さんとお母さん、上は13歳から下は0歳の5人の子ども、そしてお母さんの兄弟1人の計8人世帯。共同トイレ・共同浴場・3畳間の学生寮に住んでいた私も、4畳ほどの部屋に物理的に8人一緒に住むのは可能なのか分からず、戸惑った表情をしたところ、33歳のお母さんが「夜は8人みんなで並んで寝るのよ」と笑って教えてくれました。
お父さんがアパートの管理人として働いているため家賃は免除されていますが、管理人と洗車の仕事をかけ持っていても、経済危機で通貨の価値が下がり物価も上昇している今、「肉は月に一回、魚は月に二回しか食べられない」と言います。お母さんは0歳児の母乳育児中、さらに成長期で栄養が必要な子どもが4人もいるにも関わらず…、どうやって生活しているのでしょうか。11歳の長男は、爆発で割れたガラスにより脚に5cmほどの深い切り傷を負ったそうですが、家計を少しでも支えようと8歳の頃から働いているというレストランでその日も働いており、不在でした。
次男のユースフが「どうぞ!」と言いながらくれた水を持ちながら、ヒバちゃんにレバノンでの生活について聞くと、「この国では普通の生活ができない。シリアでは大きな家があった。でも今は破壊されて帰れないんです」。彼女は学校にも通っていたそうですが、3月以降は新型コロナウィルスの影響で閉鎖され、感染が怖く、友達にも会いに行けないため、ずっと家で過ごしているそうです。そんな中、彼女が始めたのが韓国語と日本語の自主学習でした。とてもしっかりした聡明な雰囲気のヒバは、「将来は日本などの外国で勉強したい」と言います。そんな彼女を、お父さんもお母さんもとても誇らしげに見ていました。
いつシリアに帰れるかもわからず、食べ物すらまともに買えない状況で、この一家が厳しい環境で暮らしているのは間違いありません。しかし、それでも仲良く明るい気持ちを保ち、何とかこの危機を乗り切ろうとしている姿が非常に印象的でした。
長くなりましたが、皆様から頂いたご寄付で行った支援が、こうした人びとの、人間として普通に食事をし、健やかな生活を送るという当然の権利を守ることの一助になったということが、この記事から読み取って頂けましたなら幸いです。
[1]2020年8月25日 食糧セクターのワーキンググループで共有された資料 ” 20200825_FSSWG National Working Group – Situation Analysis_final”
[2]ESCWA “POVERTY IN LEBANON: SOLIDARITY IS VITAL TO ADDRESS THE IMPACT OF MULTIPLE OVERLAPPING SHOCKS” 2020年8月19日
[3] Acaps “EMERGENCY OPERATIONS CENTRE BEIRUT ASSESSMENT & ANALYSIS CELL Analysis of humanitarian needs in Greater Beirut” 2020年8月25日
[4] ESCWA, “POVERTY IN LEBANON: SOLIDARITY IS VITAL TO ADDRESS THE IMPACT OF MULTIPLE OVERLAPPING SHOCKS” 2020年8月19日
[5]1997年にNGOグループと国際赤十字・赤月運動が開始したスフィアプロジェクトにおいて、「人道対応に関する最低基準」とともに策定された。すべての災害や紛争から影響を受ける人びとは尊厳ある生活を営む権利を有して おり、そのための保護と支援を受ける権利を保有するという、人道支援に関わる人びとの共通認識を明文化している。
(レバノン事務所 風間)
募金総額: 122万円(120件)
食糧バスケット: 米やパスタ、ひよこ豆、レンズ豆、トマト缶、ツナ缶、植物油など× 150世帯
衛生用品:マスク、消毒液、使い捨て手袋、トイレットペーパーなど × 150世帯