レバノンに滞在するシリア難民のうち、半分以上は18歳未満の子どもであるとされています。レバノン政府は、シリア難民の子ども達にも教育機会を提供するために、公立学校の授業を午前と午後の二部制にして、午前はレバノン人、午後はシリア人と分けていますが、キャパシティが足りず、学校に通えない子どもがたくさんいます。さらに、「学用品を購入できない」、「通学費を払えない」、「働かないといけない」などの理由でも、子ども達は学校に通っていません。
内戦前のシリアは、初等教育の就学率は99.1%と非常に高く、社会全体において教育の重要性が認識されていました。しかし、レバノンに滞在するシリア難民の就学率は非常に低く、小学校の学齢期(6~14歳)の子どもの就学率は67%、中等学校の学齢期(15~17歳)の就学率は29% [1]とさらに悪く、3人に1人が教育を受けることが出来ていません。10歳前後の子どもたちが教育にアクセスできないことは、男子の場合は児童労働、女子の場合は「早期婚」にもつながっています。
シリア難民がレバノンにやってきてすでに10年が経過しましたが、シリア情勢の今後の展望は未だ定かではありません。その期間を教育の機会がないまま過ごすことは、シリア内戦が終結して帰還できた後も、その子どもたちの将来、ならびにシリア社会にとって大きな影を落とすことになるでしょう。
パルシックは、2017年からレバノンの東部ベカー県バル・エリアス市において、難民キャンプに隣接する場所に教育センターを設置し、就学出来ていない子ども達への教育支援を開始しました。2020年からは、北東部バアルベック・ヘルメール県アルサール市で新たに教育事業を開始しました。
シリア難民が多く住む地域の1つ、ベカー高原では、シリア難民は農村地帯の決して豊かとはいえない暮らしをしているレバノン人の農地の一部を借りて、テントなどを張って住んでいます。これはレバノン政府が難民の定住化を好まず、難民たちが固定住宅に住むことを認めないためです。ベカー県の就学率は、他の地域と比べても低く、小学校の学齢期(6~14歳)の子どもの54%、2人に1人しか学校に通うことが出来ていません。(全国平均67%) [1]
パルシックはダルハンミーヤ地区の難民キャンプに隣接する場所に教育センターを設置し、就学できていない子どもたち(5~12歳)に公立学校のカリキュラムに準じた基礎教育を提供し、多くの子どもがレバノンの公立学校に編入できるような活動を積極的に展開してきました。
2017年からの3年間で、752人の子ども達に初等教育を、224人に就学前教育(日本の幼稚園)を提供しました。公立学校への入学が難しい子どもたちのために公教育への橋渡しをするALP(就学促進プログラム=Accelerated Learning Programme)の試験にも341人が合格し、公教育にアクセスできる機会を得ることが出来ました。
アルサール市は、シリアと国境を接し、レバノン人30,000人に対してシリア難民が33,000人住む地域です。主に石材の採掘により生計を成り立たせていた小さな市であり、収入源となりうる経済活動が非常に限られているため、就労制限のあるシリア難民は、働き口がほとんどなく、国連やNGOからの支援を頼りに生活しています。
アルサールには、学齢期の子どもが通う公教育施設が12校(公立学校が3校、私立学校が9校)あります。(2020年9月時点)そのうち、シリア難民が通うことが出来るのは、公立学校のセカンドシフト3校と、私立学校のセカンドシフト1校のみです。それ以外に、シリア難民の通うNGOが運営する非公式教育センターが10校ありましたが、2020年1月に、難民の長期滞在を望まないレバノン政府により閉鎖の通達がされ、その結果、非公式教育センターに通う5,100人の子ども達が教育機会を失うことになりました。
パルシックは、教育機会を失ったシリア難民の子ども達に教育へのアクセスを提供するため、2020年10月よりアルサール市にあるアルヌール私立学校の施設を借りて、午後シフトの授業をスタートしました。
[1] UNHCR , VASyR 2020 Vulnerability Assessment of Syrian Refugees in Lebanon P57-58(https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/VASyR%202020.pdf)
※この事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。