先日、新しく造成する予定のため池をリタ集落に見に行ってきました。その日は使える車がなかったので、スタッフのダニエルと2人で歩いていくことにしました。リタ集落には何度か車で行ったことがありますが、歩いていくのは初めてです。ダニエルにどのくらいかかる? と聞くと「すごく遠い。2時間かかる(dook liu, oras rua)」という返事でした。
マウベシ市場の手前を左に折れ、アスファルトの路から外れて丘陵地帯に入っていきます。ダニエルは普段から物静かで、こちらから話しかけない限り会話がほとんどありません。このまま黙って山歩きとなると、修行のようになりそうだったので、なんとか話題を見つけようと頑張りました。すると向こうから若い女性が歩いてくるではないですか。ダニエルが「ボンディア(おはよう)」と朗らかにあいさつをしているので知り合いのようです。さっそくダニエルに話しかけます。
「あの人、美人だったね」
「そうか? 彼女は坂の上の病院で働いてんだよ」
「へえ、そうなんだ。美人だったなあ。結婚してんの?」
「してる。子どもが7人いるよ」
「7人。ほう、そうか・・・」
ちなみに子どもが7人というのは、ティモール人にとって特に多いわけでもないそうです。ダニエルにも5人いますし、子どもの数が1桁なら普通、2桁だと多いかな、という感じです。少子高齢化を突き進む日本からすると、うらやましい限りです。
コーヒーの林を抜けて小川を渡り、山道を登ったり下りたり、寝ている牛の横をすり抜けたりしたのち、リタ集落に到着しました。思ったほど時間はかからず1時間と少しでした。気持ちよく晴れた日で、リタ集落から谷を挟んで、遠くにマウベシの街が見えました。マウベシを見つけるには、壁がクリーム色で屋根が緑色の教会を探せばよいのでかんたんです。
実はリタ集落には少し前に来ています。そのときは専門家と一緒にため池を造成する場所を決めました。その際、未来のため池オーナーとなるマルコスさんに「ここからここまでを掘ってくださいね」と指示しておいたのですが、なんということでしょう、まったく掘っていませんでした。前回、目印に立てた木の棒が、むなしく風に吹かれています。あの時のマルコスさんは、目をキラキラさせて話を聞いていたのに・・・。
マルコスさんは分かりやすいほどの苦笑いを浮かべながら「最近は雨が多くて、掘れなくて・・・」と言い訳を始めました。が、掘ってないものはしょうがありません。村人任せにしていた我々にも責任があります。近いうちにスコップなどを持って出直すことを決めました。
前回からだいぶ日にちが経ってしまいましたが、今月になってマルコスさんのため池を見にリタ集落を再訪しました。すると2度目の正直、ではありませんが、立派なため池が出来上がっていました。先週マルコスさんとダニエルの2人で、朝から晩まで1日かけて掘ったそうです。
このため池は比較的小さなもので、水源より上部に造るのがポイントです。傾斜地に雨が降ったあと、雨水は何もしなければ流れ落ちていきますが、ため池を造ることにより水が貯まり、貯まった水が地中に浸透します。その結果、下部に位置する水源が豊かになり、さらに下部にある畑に水が引きやすくなる、というシステムです。
「父さんは畑に出ているよ」と男の子が教えてくれた通り、その日マルコスさんには会えませんでした。リタ集落では別の場所にため池を造る予定があるので、その際に労いの言葉をかけることができたらいいな、と思います。
(東ティモール マウベシ事務所 大島大)