5月20日(土)の東ティモールの独立記念日に、巣鴨にてオンラインと対面のハイブリッドでイベント『東ティモールのこれから~独立記念日に日本と東ティモールで考える~』が開催されました。
巣鴨のオフライン会場は熱気に包まれ、多くの人で埋め尽くされていました。物販ブースや飲み物コーナーもあり、開始前に東ティモールのコーヒーのサービスもありました。
前半は、帰国中の東ティモール事務所代表 伊藤淳子さんによる現状報告、後半は東ティモールで起業している2人と繋いで直面している課題にどう向き合っているのか、クロストークが行われました。
2002年に国として独立を果たした東ティモールは、様々な政治的な駆け引きや混乱によってなかなか思い通りに国づくりが進んできませんでした。2011年からは「東ティモール戦略的開発計画」に基づき、どの政党が政権を取ってもこの開発計画に沿って国づくりができるようにと現在まで歩んできました。
この「東ティモール戦略的開発計画」で取り上げられていることの1つは若者たちであり、独立後、国の人口の半分以上は20歳に満たない人たちで構成されています。このことが新しい国にとって大きなチャンスであると捉えられ、若い人が熱意を持って新しい機会にチャレンジしていく熱量は、20年間東ティモールで暮らしている伊藤さんも強く感じていることだそうです。
データラベルがグラフから飛び出ている内訳以外は全て天然資源に関連した国家歳入収入。2022年の段階でも歳入の9割が天然資源収益に依存していることが分かります。
データラベルがグラフから飛び出ている内訳のうち、4分の1は何かしらの定額の収入を得ている人、それ以外は学生や農業、漁業など、自給農業に携わっている人たち、または家事をしている人たちなど。4分の3は収入を得るのがとても不安定な状況にあります。
学生たちは就労年齢になっても受け入れられる就労の機会がほとんどなく、だいぶ前から指摘はされてきたものの、改善や目立った変化がない現状。エネルギーもあり生活をしなければならない若者はイギリス、アイルランド、韓国、オーストラリアなどに仕事を求めて出ていくことが多いそうです。
ASEAN地域で唯一加盟していなかった東ティモールは、2011年から加盟申請し、昨年ようやく承認され具体的な手続きが始まっています。しかし、東ティモールにとってはメリットやチャンスになることは少なく感じられ、むしろ脅威になることの方が大きいのではと言われています。
2023年現在でもASEAN圏内で米ドルを通貨として使っているのは東ティモールのみであり、近隣諸国からドルを稼ぎに来る人が多いそうです。ASEANに加盟すれば、人や物もサービスもさらに自由に行き来ができるようになり、より多くの人たちが仕事をするために東ティモールに来ることができます。ただでさえ東ティモール人が仕事を得ることが難しい状況に、さらに追い打ちをかけることになりますが、それでもASEAN加盟にこだわる理由は、東ティモールが自分たちの力で独立を果たした東南アジアの中でも最も民主的な国であると評価されている矜持と、ASEANという地域で東ティモールも何か役割を果たしたいという強い政治的な願いがあるのだろうと伊藤さんは言います。
東ティモールは多くのことを経験し、最終的に自分たちの力で民主主義を達成しました。独立後20年経っても平和的な国づくりをしていると示したい想いもあるのでしょう。そして、そうなってほしいと伊藤さんたちも願っているそうです。
第2部は学生NGO HaLuz からの質問を交え、代表でもあり、現地事務所で半年間インターンをされていた黒沢舞衣さんの進行で東ティモールとのクロストークが行われました。
黒沢さんの現地レポート「東ティモール日誌」はこちら
東ティモールの首都、ディリで3軒のSkyra(スカイラ)コーヒーショップを経営。2021年6月から事業を開始。ビジネスマネジメント学科を卒業した後は、ビジネスイノベーションチャレンジというコンテストで入賞し、資金援助を受けて経営されています。
東ティモールでは多くの若者が学業を修め卒業した後は、公務員になることを望むそうですが、自分たち自身が新しい機会を若者たちのためにつくることもできるのではと思ったのが、事業を始めたきっかけだそうです。
東ティモールはコーヒーが有名で、東ティモールのアイデンティにもなっています。多くの人がコーヒーを飲むのに対し、女性はあまり飲まないので、彼女たちにも楽しんでもらえるようなお店にしたいと思ったそうです。甘いものが好きな女性向けに、チョコやクリームなど豊富なメニューを揃えたり、ロゴをカップに印刷したり、ユニタさんらしさがあらゆるところに現れています。
ディリ大学の教育学部英語学科を卒業し、Youth Empowerment for Futureという団体の設立者で代表。2019年から活動を開始し、東ティモールの若者たちと野菜栽培、畜産・養殖に取り組んでいます。
東ティモールは天然資源の収益に依存しているため、、農業を1つのビジネスの機会にしたい、農業を通じて自分自身が仕事で収益を得て、他の人にも仕事をする機会を提供したい。同時に、多くの失業者、食の安全、栄養不良の子どもたちが多いなどの社会的な問題に対して、東ティモールが抱える問題に農業は1つの答えになると思ったのが事業を始めたきっかけだそうです。
農業は重労働であり、気候変動などにより自分たちの努力が実を結ばないこともあります。また、市場での競争も大変なことです。ディリ市内のお店で扱われている商品の大部分は輸入品であり、アメウさんたちの国産品はこれらと競っていかなければなりません。不利な状況に立たされることも多いそうですが、価格や品質パッケージなどの面で、それらと競っていけるよう努力を続けているそうです。
お2人のお話を1時間弱たっぷり聞くことができ、オンラインからも会場からも多くの質問が挙がっていました。
ユニタさん、アメウさんが起業家として国の発展のために、そして東ティモールの人たちのために尽力されていること、外国からの競合も多いなか、東ティモールの強みを活かして事業を継続されていること、未来を見据えて行動されている姿に熱意と力強さを感じました。
伊藤さんの現地でのご経験や考察は非常に参考になり、独立を果たしても資源の枯渇や継続的な収益を得ることの難しさ、就労機会の少なさ、若者の就労の現状など学ぶことが多い時間でした。今後のASEAN加盟の動向は、引き続きニュースやパルシックさんを通して、情報を得ていきたいと思います。そして少しでもサポーター会員として関わっていることが東ティモールにも繋がるといいなと願っています。
終了後の交流会もスナックや飲み物をいただき、有意義な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました!
(ボランティア 杉山 久美子)