シャンルウルファ県では市街地でも農村部でも、歩いていれば必ずアラビア語を耳にし、シリア人経営のレストランやちょっとしたカフェ、商店も簡単に見つけられます。
それでも、ここはあくまでトルコ。生活必需品や食品の多くは、トルコ産のものになります。
シリア人家族が食糧バウチャーを利用できるハラン市の契約商店でも、ほとんどの商品はトルコ産。
そんな店内でもシリアの人びとのために、シリアからやってきた品々が陳列されている棚があります。
否応なく異国で長く滞在しなければならないシリア人家族が、家庭でひとときの安らぎを感じられる味や香り。今回はそんな品々をご紹介します。
紛争下にありながら、世界のオリーブオイル生産量第4位を誇るシリア。
特にシリア南西部のダルアー県はオリーブオイル生産地として有名です。サラダや炒め物にはもちろんのこと、シリアパン(直径30cm、厚さ5mmほどの平べったい丸型パン)につけただけで、ごちそうになるほどの香りの良さです。
オリーブオイルに砂糖を少々加えパンにつけて食べるシリア人もおり、オイルのまろやかさと甘さが引立ち、フレッシュな味と香りを楽しむことができます。
パレスチナや他の中東諸国でも一般的に食されているすり潰した豆のコロッケ。
ヒヨコマメを使うか、ソラマメを使うかは国や地域によって異なり、どんな香辛料を加えるかによって風味や食感も多彩になります。
国、地域、飲食店、家庭により、まったく味が異なる体験をすることは稀ではありません。
家庭で簡単に作る時には、ファラーフェル粉を水で戻し、専用の成型器で押し出しながら油に落とし揚げていきます。
揚げたてのファラーフェルは食べ始めると止まらなくなってしまうおいしさ。時間がたっても、シリアパンに潰したファラーフェルとトマト、イタリアンパセリ、ピクルス、ソースなどを載せ巻き上げれば、おいしく腹持ちのよいファラーフェル・サンドイッチのできあがりです。
基本的には乾燥した粉末状のタイムに塩やオリーブオイル、ゴマを加えたもので、他のスパイスを調合したものもあります。
タイムの香りにゴマの香ばしさが加わり塩分と多少の酸味が調度良く、食欲をそそるスパイスです。
シリアパンにオリーブオイルを少量つけた上に、ザータルをつけて食べるのが一般的です。
トルコの商店で販売されているのは乾燥状のものですが、シリアでは自分で育てて使用する家庭も多いようです。
収穫期の夏にはフレッシュなままで使用し、保存用に乾燥させて冬でも楽しむことができます。
ニンニクやレモン汁、好みで鶏肉を加えて炒め、炊いた米やシリアパンと一緒に食べます。
パレスチナの朝食にもよく登場する鶏肉または牛肉のソーセージで、缶詰状になっています。
炒めた卵などといっしょにシリアパンに挟んで、サンドイッチにして食べることが多いようです。
缶詰状になったイワシのオイルサーディンで、レモンを搾りシリアパンと一緒に食べます。
トマトやヨーグルトと一緒に食べるシリア人もいます。
日本でいうインスタントラーメンですが、パンが主食のシリア人でも多くの人びとが好んで食しています。
袋には乾麺と袋入りのだし、スパイス、オイルが入っており、野菜や鶏肉だしのあっさりしたスープにスパイシーな辛みがある味付けです。具材をのせず麺とスープだけで食べることが多いようです。
いわゆるアラビック・コーヒーと呼ばれるもので、粉末状のコーヒー豆にスパイスを混ぜ、専用の小さな鍋で湧かしたものです。
小さなカップにそのまま注ぎ、上澄みを飲みます。混ぜるスパイスはカルダモンやサフランで、すでに調合されたものが販売されていますが、好みに合わせて自分で調合する人もいます。
トルコ・コーヒーと似ていますが、トルコ・コーヒーは基本的にスパイスを混ぜず砂糖を多く入れ、注ぐと泡立ちが多くよりなめらかな口当たりになります。
日常的に最もよくシリアの人びとに飲まれているのが紅茶。たっぷり砂糖を入れて飲むのが一般的です。
一言に紅茶といっても、トルコで飲まれているものよりも茶葉が大きめの特定の茶葉でないと、「紅茶」と言えないようです。
シリア人のどのお宅に訪問しても、小さなグラスに入った紅茶がもてなされます。
コーヒーや紅茶ほどの需要はないものの、マテ茶もシリアの人びとから愛飲されています。
紅茶よりも茶葉の香りは青々しく、茶葉を入れたカップにお湯を注ぎ、専用の金属製ストローで飲みます。
専用ストローは先端が袋状で小さな複数の穴が開いており、茶こしの機能を兼ね備えています。
アラビア語で「花々」と呼ばれているハーブティーは、見た目も美しい花々のお茶です。
バラ、カモミール、ミント、セージなどが入っており、春に収穫されたこれらハーブを乾燥させて作ります。
冬でも春の香りを感じられリラックス効果のあるお茶ですが、胃痛や生理痛などを緩和させる、薬効茶としても愛飲されているそうです。
バラやカモミールの花々からとれた、アラビア語で「花の水」と呼ばれるエキス。主に米を使ったお菓子づくりに、香りづけとして利用されます。
女性は化粧水やスキンケア・マスクとしても利用しているそうです。
シリアの人びとが生活の一部として日常的に食していたこれらの生産物ですが、紛争後にはシリア国内での価格が高騰し、4倍から5倍で売られているものもあるようです。
トルコでの販売価格は、紛争前のシリア価格よりも高いものの、現在のシリア価格よりは安いこともあります。
慢性的な食糧不足下では、最低限の食糧しか手に入れることができません。また老齢の方は特に、これらの味や香りから強くシリアを感じ、郷愁をいだき悲しみも味わうことがあるそうです。
以前のように食事を「楽しむ」までには、まだまだ時間がかかりそうです。
(シャンルウルファ事務所 高田)
※この事業は、サポート・トゥ・ライフ(Support to Life)の協力のもと、ジャパンプラットフォームの助成により実施しています。
https://www.japanplatform.org/programs/syria-iraq-conflict2015/