PARCIC

ベイルート大規模爆発被災者支援

ベイルート大規模爆発緊急支援のご報告

2020年8月4日、レバノンの首都ベイルートで発生した大規模爆発から早9か月が経過しました。パルシックは、即座に報告会を実施するとともに、皆様からいただいたご寄付で、食糧バスケットや衛生用品をベイルートに住む150世帯(約750人)の人びとに配布しました。さらに、パルシックは、2020年12月より食糧、衛生用品、家屋補修支援を行いました。

レバノンでは、ベイルート大規模爆発により191人が亡くなり、6,500人が負傷しました。9,100の建物に住む約219,000人が爆発の直接的影響を受け[1] 、爆発で少なくとも70,000人が職を失ったと推計されています [2]

爆発地点から1km以内にある、爆発から半年以上たっても壊れたままの建物。

しかし、爆発発生以前よりすでに、2019年後半に始まった経済危機と新型コロナウィルス感染拡大の影響で、レバノンに住む人びとの生活は困窮し、人口の55.2%が貧困ライン以下の状態にありました[3]。こうした何重もの負の影響により、過去1年半で実質的な通貨の価値は1米ドル=1,500レバノンポンドから、12,000ポンド(2021年3月には一時15,000ポンド)にまで下落、実質的な最低賃金は月あたり450米ドルから約50米ドルにまで低下しました。失業率も上昇しているにもかかわらず、食糧価格はレバノンポンド建てで400%値上がりしています。レバノンは、米ドルとレバノンポンドの2つの通貨を日常的に使うため、米ドルを持っている人やお金持ちしか食糧を買えないような状況に陥っています。

下の図は、10,000レバノンポンド(公定レートで6.67米ドル)で何が買えるかを示したものです。2019年3月には、牛乳1リットルに、トマト、オレンジ、リンゴ、キュウリ、米、チキンが1kgずつ買えたものが、2021年3月には牛乳1リットルしか買えなくなりました。その結果、避難生活を強いられているシリア人や他の国から避難している難民や移民などの生活に困難を抱えた人だけでなく、レバノン人でも、最低限の食糧を買うために借金をする人が増加しています。

AL Jazeera “Lebanon faces tough Ramadan amid ‘insane’ food prices” 2021年4月17日より抜粋。

食糧だけではありません。レバノンは、製造業が発達しておらず、野菜や果物以外の食糧、日用品、その他物資のほとんどを輸入に頼っているため、通貨価値の下落は原則そのまま国内販売価格に反映されます。爆発で家が破損した人びとも、物価上昇により自力で修理することが難しい世帯が多くありました。

また、新型コロナウィルスは、クリスマス・年末年始シーズンの2020年12月から2021年1月にかけ、感染者が急増し、人口約600万人のレバノンにおいて、最大で1日当たり6000人を超える新規感染者が確認され、医療崩壊の様相を呈しました[4] 。お金がないために、マスクなどの衛生用品を買ってコロナ対策ができないという状況もありました。

食糧バスケットは、ベイルート大規模爆発地点から3km以内に住む1,500世帯に対し、月1回4か月間、また衛生用品は、同じ1,500世帯へ1回配布しました。

食糧バスケット配布の様子。米、パスタ、豆、缶詰などの保存のきく食糧を中心に詰め合わせました。

新型コロナウィルスの感染者の増加や、それに伴うロックダウンなど、様々な障害はありましたが、感染防止策として、スタッフの手の消毒・マスク着用を徹底するだけでなく、広い配布場所を選び、受け取り時間をずらすことで、一斉に受け取りに殺到することを防ぎました。また、配布場所には、地区長や、市の職員の方々にも配布場所に毎回来ていただけたことで、大きな混乱なく配布を終えることができました。

受け取りに来た方々の受付を手前の机で行い、奥のトラックに積まれた食糧バスケットを手渡す様子。動線を工夫し、ドライブスルー方式で迅速に配布が行えるようにしました。

自営業を営む50代の男性は、「2019年10月に始まった政情不安以降、新型コロナウィルス感染対策のためのロックダウンも重なり仕事ができずにいたところ、2020年8月の大規模爆発でオフィスが破壊されました。ようやくこの2021年2月にオフィスの補修が済んだところです。収入がなかったので食糧配布は助かります。」と話していました。また、「妻も私もまだ仕事はありますが、収入は半分に減ってしまいました。全てのものの値段が上がっているので、食糧や衛生用品バスケットでその分を節約できます。」という小さな子どもを持つ30代の男性もいました。

また、鍋やフライパン、コップ、スプーン、フォークなどが入った調理器具・食器のセットを136世帯へ配布しました。これは、爆発の影響で調理器具や食器が壊れたものの、新しいものを買う余裕がない人がいたためです。乗合バンの運転手の夫と子ども3人と住んでいる50代の女性は、爆発でアパートが揺れたこと、キッチンの屋根が一部落ち、窓ガラスが割れたこと、食器も満足にないことなどを話しながら、配布したセットを見て、「まるでラマダーンみたい!」ととても喜んでくれました。いつもラマダーン月は、家族や親戚と家やレストランで断食明けの食事をして、街やスークをぶらぶら歩いてショッピングを楽しむのですが、ここ1年半は経済危機で食料を買うのも大変で、食料品以外のものには、なかなか手を出せなかったのです。

配布した調理器具・食器セットに喜ぶ女性(右)

加えて、14世帯への家屋補修も実施しました。多くの世帯では優先順位の高い窓ガラスなどの補修は済んでいました。しかし、爆発の衝撃で老朽化したアパートにひびが入り、そこから水がしみ込んで変色したり、壁がはがれたままになっているなど、窓ガラスと比べて優先順位が低いものの、補修する必要があるダメージを主に補修することができました。看護師として働いていたがもうずいぶん前から仕事がなく、家族の支援に頼っているという一人暮らしの60代の女性は、「最低限の窓ガラスの補修は借金をして直したけど、それ以上のことはできないままでした。今回家のはがれた内壁を直してもらい、家がきれいになってうれしいです。ありがとうございます。」と笑顔で話してくれました。

爆発の衝撃で割れた壁を補修している様子

5月13日をもってこの事業は終了しました。しかし、爆発地点に近く、破壊の程度が大きかった建物、病院や学校などの公共施設はいまだに満足に補修されていないものもたくさんあります。また、障害を負った人びと、精神的な傷が癒えない人も多く存在します。

そして難民として生活するパレスチナ人やシリア人の人びとは一般的にレバノン人よりも厳しい状況に置かれています。レバノンのパレスチナ難民は、1948年のイスラエル建国宣言とそれに伴う戦争以降にレバノンに逃れ、それ以来レバノンで住むことを余儀なくされています。またシリア国内では戦闘が収まってきていると言われているにも関わらず、レバノンにはいまだに90万人近い登録シリア難民と約50万人の非登録のシリア難民がいます。多くの難民が帰国すれば身の危険をがある、徴兵されたくないなどといった理由で帰国できないでいるのです。

レバノンの経済状況は悪化し、回復の兆しが見えていません。パルシックは今後も引き続き状況を注視し、必要とされる活動を出来る限り行って行きます。

[1]UNHCR “Beirut Port Explosions: Shelter Sector dashboard (October 2020)” 2020年10月13日
[2] ACAPS, EMERGENCY OPERATIONS CENTRE BEIRUT ASSESSMENT & ANALYSIS CELL Analysis of humanitarian needs in Greater Beirut, 25 August 2020 P11
[3]ESCWA “POVERTY IN LEBANON: SOLIDARITY IS VITAL TO ADDRESS THE IMPACT OF MULTIPLE OVERLAPPING SHOCKS” 2020年8月19日
[4] ASHARQ ALAWSAT “Top Lebanese Hospitals Fight Exhausting Battle against Virus” 2021年1月22日

(レバノン事務所 風間)

※この事業はジャパン・プラットフォームからの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。

関連プロジェクト