PARCIC

ムライティブ県帰還民の生活再建支援

ムライティブ日誌#3 井戸水検査1 「チューブ井戸」の穴を掘る

パルシックがムライティブ県で建設する共有井戸は、直径約2.5メートルの丸い堀井戸ですが、この地域では、手でこぐポンプのついた簡易式のチューブ井戸と呼ばれる井戸も比較的多く利用されています。サイズや状態にもよりますが、丸い井戸の場合、壊された井戸の修復に約50,000ルピー、新しい井戸の建設に最低でも約100,000ルピーがかかることに比べ、最も簡単な作りのものであれば15,000ルピーで完成するチューブ井戸は手頃で、建設に時間もかからず、緊急で水を得るには向いています。ただし、この15,000ルピーも、家が崩壊し何もないところに戻ってきた人々にとっては大きな支出で、自分では払えない世帯がほとんどです。そのため、資金を捻出できた家のチューブ井戸を、周囲に住む人々と共有しているケースを多く見かけます。以前は1世帯に1つ堀井戸があったこの地域にとって、チューブ井戸は新しい存在ですが、手でポンプをこぐと水が蛇口からあふれ出る様子は、見ていても気持ちがよく、人々は嬉しそうにたくさんの水が出て来る様子を汲んで見せてくれます。

※1ルピーは約0.73円

チューブ井戸で水を汲む住民

チューブ井戸で水を汲む住民

共有井戸の建設にあたり、予定地の水が生活用水に適した水かどうか検査するため、このチューブ井戸用の細い穴を掘り、事前に水のサンプルを取って調べることにしました。通常、長らく地域に住んでいる住民が、他の誰よりも良い水が得られる場所を知っています。ただ、この地域の人々は戦争中の26年間、ほとんどここにいなかったことから、その間に、水質が変わってしまっている可能性があるので、水を調べることにしました。自然な水脈の変化だけでなく、津波や気候変動、戦争中に使用された兵器なども水質に影響します。通常の井戸と同様、時には12メートルもの深さになるものもある、というチューブ井戸。直径約20センチ足らずと細いので、どんな技術を使って掘るのだろうか、と疑問でした。

今回穴を掘ってくれたのは、事業地から車で20分程度のところにあるチェマライ村のシライチェルヴァムさん。20代半ばという年齢に似合わない落ち着いた風貌の彼は、本職は海とラグーンで漁をする漁師ですが、以前チューブ井戸業者で働いたことがある経験を活かし、2010年に、自らこの仕事を始めました。これまでに、ムライティブ県で約200のチューブ井戸を作ってきたそうです。内戦が終わり、人々が本格的にムライティブに帰還し始めた2010年から2011年が、最も注文が多かったといいます。

土を掘り出す作業(右がシライチェルヴァムさん)

土を掘り出す作業(右がシライチェルヴァムさん)

穴を掘る作業はシンプルで、今回、コクトルワイで使った道具は2点のみ。小さな筒状の缶で覆われたドリルが先端に付いている長い棒と、底が弁になっている、これも金属製の円筒形の筒。この2点を、土壌の固さや深さに合わせて使いこなし、手作業で土を掘り出していきます。土を掘り出すと同時に、側面に切り込みを入れたプラスチック製のパイプを地中に埋めて行き、その中に水をためる仕組みです。シライチェルヴァムさんたちは、3人がかりで、1時間もしないうちに、ひとつの穴を完成させてしまいました。コクトルワイは砂地なので、作業が容易ですが、地盤が固いところでは、機械を使うとのこと。村の人々には、チューブ井戸は耐用年数が2年ほどしかないといわれていますが、実際はもう少し長く使うことができるそうです。

チューブ井戸の穴が完成しました

チューブ井戸の穴が完成しました

穴が完成してから2日間、パイプの中に水をため、その水を検査しました。〈続く〉

(ムライティブ事務所 伊藤文)