ラマダン(断食月)はイスラム教徒にとって1年で最も神聖な月で、今年は4月24日からの30日間に行われています。預言者ムハンマドは「断食月が始まるに従い、天国の門が開き、地獄の門は閉まるのだ」と話しました。
この時期、イスラム教徒は日の出から日没まで毎日断食を行わなければなりません。断食を行う時間は日の出ている長さに従うので、国によって異なります。例えばパレスチナでは17時間断食していますが、1年で最も日が長い6月の夏至に近づくにつれ、断食時間は毎日数分ずつ長くなります[1]。ラマダンの間は、日没後に家族みんなが集まって食事を共にするだけでなく、通常のお祈りに加えて、タラウィーハ(traweh)と呼ばれる夜のお祈りも行います[2]。
「始まりは白か緑」ということわざがあり、慣習としてラマダン初日は白か緑のものを使った夕食で迎えます。例えばマンサフ[3]は白い料理、モロヘイヤは緑の料理、あるいは他の料理でも構いませんが、白か緑どちらかの色に当てはまるものを食べます。人びとはこれらの色が幸福や安らぎ、繁栄をもたらしてくれると信じているのです。
通常、この神聖な月には、特別な儀礼とお祝いがあります。例えば、世界中のモスクがタラウィーハのお祈りを行うのですが、残念なことに今年は、世界的なCOVID-19の流行のため、アルアクサモスク[4]はラマダンの期間を通じて閉鎖することになってしまいました。例年、イスラム教徒の礼拝禁止を強制するイスラエルの政策で度々閉鎖される場所ではありますが[5]、今年の閉鎖理由はCOVID-19でした。
お祝いと言えば、ラマダン中、窓やバルコニーにライトやファヌース(ランプ、灯篭飾り)の飾りつけをするのを忘れてはいけません。ラマッラー市内では、毎年市役所が巨大なファヌースを設置します。大抵、この巨大ファヌースの点灯に合わせてパフォーマンスやスピーチなどのイベントが催されるので、子どもたちはその瞬間をわくわくしながら待っています。街中は光やスイーツ、ホームメイドのジュース[6]で溢れかえります。家族の集まりや親戚を訪問してイフタ―ル[7]を共にするだけでなく、ラマダニーヤと言われる贈り物の交換も忘れてはいけません。贈り物はお金だったり、食べ物だったりします。
COVID-19の世界的流行によって、今年、パレスチナを含む多くの国々では、大規模な集まりを避け、イフタールもスフール[8]も、個人や世帯レベルで行うよう市民に求めています。
COVID-19はラマダンを根底から変えてしまいました。人びとでにぎわうはずの街中は閑散とし、モスクは閉鎖。スイーツショップも閉まったままで、集う人びとのざわめきや笑い声はどこかへ行ってしまいました。ファヌース点灯イベントは市役所のスタッフのみでささやかに行われました。
ラマダンは私たちにとって神を身近に感じる大事な機会。このひどい悪夢のような状況を早急に終わらせて、私たちに普通の生活をとり戻してくださるように、と強く祈りを捧げています。
パルシックのスタッフ一同より、皆様が健康に幸せなラマダンを過ごせるよう心より願っています。
[1] 6月下旬の夏至が1年で一番日が長いので、夏至までは断食時間が毎日伸びていく。
[2] 断食月には通常のお祈りに加えて、夜のお祈りが追加で1回分増える。
[3] 羊肉とジャミードと言われる乾燥ヨーグルトソースを使ったヨルダンの伝統料理。ただし、日本人の目からすると見た目は黄色い。
[4] 預言者ムハンマドが昇天したと言われる聖都エルサレムのモスク。
[5] 同じ場所にはユダヤ教徒の聖地「嘆きの壁」がある。そのため、イスラエルは度々「治安」を理由にイスラム教徒のアルアクサモスク参拝や、モスク内での礼拝を禁じる措置をとっている。エルサレムではモスクに入れない人びとがエルサレムの城壁の外の駐車場や道路脇で、場合によっては警察や軍の監視を受けながら、お祈りしている姿が頻繁にみられる。
[6] 断食中は、日中飲まず食わずなので日没後にのどを潤す定番のジュースが街のいたるところで売られている。黄色、白、黒の3色が定番。味はそれぞれ、レモン、アーモンド、タマリンドないしキャローブ(イナゴマメ)となっている。
[7] 断食明けの夕方の食事。大抵パーティかというくらいとても豪華。
[8] 日の出前に取る食事。だいたい朝の2時か3時で、その時間帯になると、どこからともなく太鼓を叩きながら街を練り歩き、人びとを起こして回る声が聞こえてくる。
(パレスチナ事務所 ヤラ)