マルハバ(こんにちは)!
今年もパレスチナにオリーブ収穫の季節がやってきました。
地中海性気候と砂漠性気候の中間のような地域にあるパレスチナでは、5~9月までが乾季、10~4月までが雨季となっています。乾季の間は雲一つない晴れが連日続き、強い日差しにぐったりしてしまうほどですが、一度雨が降り雨季に入ると、あっという間に気温が下がり、冷たい風が吹き始めます。
昨年は気候変動の影響で雨季がずれ込み、11月まで雨が全く降らないという異常事態になっていましたが、今年は10月初めより、もくもくとした黒い雲が空に出現し始め、スコールのような雨がさっと降りました。
この雨を待ち望んでいたのがパレスチナの農家さんたち。空気が常日頃乾燥し、砂埃が舞うため、オリーブ農家さんたちは初雨で砂埃が洗い流され、実がきれいになるのを待ってオリーブを収穫するのです。
10月7日、パレスチナ政府がオリーブ収穫期の開始を公式に宣言。その前後からヨルダン川西岸、特に北部地域からオリーブの収穫が一斉に始まりました。
この日、ナブルス県で行う循環型社会づくり事業で共に働く農業専門家のサーデク(Sadeq、誠実な人の意)から誘われ、彼の一家が総出で行うオリーブ収穫に参加させてもらいました。
サーデクは、ラマラより少し北のセルフィート県マスハ村に先祖代々受け継いできているオリーブ畑を持っていて、オリーブの木が85本もあるといいます(ただし、85本はオリーブ農家としては少なめで、サーデクも収穫したオリーブは商業用というより家庭消費用とのこと)。
オリーブ畑に到着するとサーデクの娘さんや息子さん、親戚の皆さんがすでに働き始めていました。早速収穫に混ぜてもらいます。まず取り掛かったのは樹齢が何百年もあるオリーブの老木、“ルマーナ(=Romana)”。その名の通り「ローマ時代」からこの土地に根付いているオリーブで、サーデクの畑には2本あるといいます。年齢を感じさせず(?)、丸々とした実をたくさんぶら下げていました。
パレスチナのオリーブ収穫は手摘みが基本。ビニールシートを木の下に敷き、まだ色が変わる前の青々とした実、すでに色が変わってきれいな紫色になっている実、すべてまとめて摘んでは落としていきます。この日は併せて剪定も行っていました。じつをいうと、剪定は本来3月、雨季の終盤に行うべきなのですが、土地へのアクセスが極めて限られているパレスチナでは、作業を効率化するために往々にして収穫の際に一緒に剪定を済ませてしまうのが慣習化しています。果樹・有機栽培を専門とするサーデクも「本当は正しくないんだけど」とぼやいていました。
ほとんどが緑色の青い実ばかりの木も。戸惑っているとすべて摘んでしまってよいとのこと。早摘みの実からはやや青臭くスパイシーなオイルが、黒くまるまるして油をため込んだものはまろやかなオイルが取れると言います。しかしながら、パレスチナの人びとが収穫を急ぐ理由は他にもあるようです。「いつまでも収穫しないで残しておくと、近隣の困った若者たちが、たばこを買う小銭欲しさに勝手にオリーブの実を摘んでいってしまう」と苦笑いのサーデク。
昼を過ぎたころから日差しが強くなり、汗だくになりながらの作業。途中、木陰でコーヒーやクッキー、畑に植わったザボン[1]を食べる小休止を取りながら、何とか3本の木の収穫を終えました。
そうこうしている間に、オリーブ畑にはサーデクの家族や親せきがどんどん集まってきます。作業の合間に横目で見ていると、いそいそと女性たちによる青空クッキングが始まりました。メニューは、わざわざ車で運んできた簡易な窯で焼く出来立てホカホカ、座布団のような大きさのパン「タブーン」と、パレスチナの伝統料理「シャクシューカ」(レシピはこちら)。唐辛子と一緒に煮込んだトマトに卵を落としたシンプルながらおいしい家庭料理です。トマトの上にポンと割られた卵は、日本語と同じく「目玉(Ain al Ayun)」と呼ばれているそうです[2]。みんなでオリーブの木陰に座り、シャクシューカをタブーンにつけていただきました。仕事終わりにみんなで囲む少し遅めの昼食はとっても美味! デザートに再びザボンまで食べ、おなか一杯になりました。
[1]皮が厚いので長期輸送も腐らずに持つことからイギリス統治時代に持ち込まれたものだとか。アラビア語で「ポーメリー」と言います。
[2]正しく訳すと「片目(Eye of Two Eyes)」となります。
(パレスチナ事務所 盛田)