エルメラ県ポニララ村サココ集落でロブスタコーヒーを生産する青年組合コハル(KOHAR)と2019年に開始したアグロフォレストリー事業。2年目の今年は苗床施設と有機堆肥場を集落内に用意し、育苗を開始しています。
コハル事務局長のベントさんは、コーヒーをフェアトレード市場に出荷することで得られるソーシャルプレミアム資金から奨学金を得て、2年間、地域の農民学校でアグロフォレストリーの理念と実践を学びました。2015年、集落の高台に立って眼下に広がるコーヒー畑を見渡しながら、ポルトガル植民地時代はこのあたり一面がロブスタコーヒーのプランテーションだったこと、インドネシア軍事占領下で森に隠れるゲリラ兵のあぶり出しのためにその多くが燃やされたこと、そして独立した今、自分たちはたくさんの木を植えてここに森をよみがえらせたいんだ、と夢を語ってくれたことがありました。アグロフォレストリー事業が形になったのはベントさんのこの話がきっかけでした。
苗床の建設予定地としてベントさんたちが選んだ場所は、20立方メートルタンクを設置した場所から200メートルほど離れたアルバロさんのお宅の前庭です。乾季には子どもたちが(大人も?)サッカー遊びをしていますが、雨が降ると大きな水たまりになってしまうということで、苗床をつくるにはどの位置が良いか、慎重に検討しました。
苗床施設の建設には、水道修復を担当した技術者のルベンが引き続き設計や見積もりを出してくれました。上水道敷設工事に比べるとずっと簡単な作業です。新型コロナウィルス感染症拡大の影響で非常事態宣言が続く中、ベントさん、アルバロさんが中心となって苗床建設作業を7月からひと月半ほどで終えました。7月末にはコーヒーが赤く色づき、コーヒーの収穫、加工、計量と忙しい日々が続きました。
そんな中、水道と苗床の完成式典を開きたいとベントさんから招待を受けました。8月28日、早朝に首都ディリを出発してサココに到着すると、地域の長老や女性、子どもたちが盛装して出迎えてくれました。いつもは資材置き場になっている建設中のお宅はステージに変わり、中央に置かれたテーブルの上には特製ケーキが鎮座しています。エルメラ県水道局の局長さんやコミュニティラジオ局のジャーナリストたちも来てくれて、見慣れたサココの風景がこの日はまったく違って見えました。
12カ所設置した水場の一カ所、そして苗床施設のドアに風船とリボンでデコレーションが施され、水道局長さんとパルシックとでテープカットをしました。苗床にはバニラ、ライム、ねむの木の苗が育っています。この晴れの日を迎えるために、コーヒーの計量や支払いをしながら奔走したベントさんは、わたしとルベンに一羽ずつ雄鶏のお土産まで用意してくれていました。このテープカットはベントさんの夢の幕開けです。サココの旧プランテーション跡地が豊かな森になる日まで、一緒に夢を見続けたいと思います。
(東ティモール事務所 伊藤 淳子)
※この事業は日本国際協力財団からの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。