PARCIC

スタッフレポート

まずは苗床管理に欠かせない水の整備から

エルメラ県ポニララ村サココ集落は、首都のディリから車で3時間、山道を登って下ってたどり着きます。国道から県道に入ると途端に道幅が狭くなり、アスファルトも陥没だらけです。県道から村道に入るとアスファルト舗装もされておらず、乾季に埃だらけの道は雨季に入るとぬかるんで車両での通行はできなくなります。

サココ集落への道

ポニララ村にとって道路、電気、水という生活に必要なインフラの整備は積年の願いであり、同時に、地理的になかなか公共事業の順番が回ってこないという懸念事項でもあります。パルシックは2009年から、サココ集落の青年組合コハル(KOHAR)とロブスタコーヒーのフェアトレードを実施していますが、雨季にぬかるんだ坂道を四駆車だから大丈夫と過信して下ってしまい、帰りに登れなくなって集落内の青年たちがずぶぬれになってロープで引っ張ってくれたり、集落に泊まった夜、太陽光発電の薄暗い豆電球の下で甘いロブスタコーヒーを飲みながら昔話に興じたり、不自由な中で人びとが文字通り肩を寄せ合い営んできた暮らしの一片を垣間見てきました。

サココ集落の子どもたち

2019年4月からコハルと開始したアグロフォレストリー事業では、苗床の管理運営に欠かせない水の整備が最初の取り組みとなっています。サココ集落には現地NGOが整備した立派な貯水タンクがいくつかありますが、どれも乾季には水が枯れます。原因は水源の取水口が適切に作られていなかったり、水量や距離に対してパイプの管径が適切でなかったり、主には設計の問題でした。コハルはフェアトレードのソーシャルプレミアム(コーヒー豆の買い手から組合へ買取価格の一部が戻ってくる仕組み。使途は組合によって民主的に決定され、組合や地域の開発のために使われる)を使ったり、集落内の有志がお金を出し合ったりしてこの水道設備の補修をおこなってきましたが、自分たちの知恵だけでは限界がありました。

パルシックは2015年から3年間、マウベシという別の地域で実施した「山間部農村の水利改善事業」の経験を活かし、このアグロフォレストリー事業では東ティモール人技術者を水道専門家として招きました。水源と既存の水道設備を調べ、水源は豊富にあること、水源と集落との距離や高低差にも問題がないことを確認しました。そして改修のためにはすでにある貯水タンクやパイプのほとんどを変えなければならない、という専門家の結論を聞いて、コハルの特に中心的な役割を果たしてきた人たちは大きく落胆しました。自分たちの力で現状を変えようと努力してきたことの証が否定されたばかりか、具体的に、自分たちでお金を出し合って買ったセメントやパイプを撤去しなければならない、ということに、強く動揺しました。

完成した20立方メートルタンクの前で記念撮影。水道専門家のルベン(中央)とKOHAR事務局長のベントさん(左から2人目)。

わたしたちも、これまでコハルのリーダーシップや自主性に任せきりにしていたことに責任を感じます。コハルがフェアトレードのソーシャルプレミアムで水道設備の補修を決めたとき、専門家を探して一度見てもらってはどうかと提案することもできたのではないか。有志がお金を出し合って少し遠い集落まで水を引くというアイデアを聞いた時、そのお金が無駄にならないよう一緒に考えることもできたのではないか。自主性を尊重することと任せきりにすることとの微妙な違いを、うまく使いこなせていなかったと反省しました。

こうした過程を経て始まった水道設備の改修工事は、やはり、コハルの自主性に助けられ、集落の多くの住民の参加を得て着々と進みました。苗床建設予定地の近くに20立方メートルの貯水タンクが立ち、さらに6立方メートルの貯水タンクに配水し、12の公共水場を設置して周辺の住民65世帯が年間を通じて生活水にアクセスできるようになりました。20立方メートルの貯水タンクの型枠に一気にセメントを流し込む日、30人以上の男手と10人近い女性たちが集まり、朝から夜8時までかけて作業を終わらせた光景には気持ちのよさすら覚えました。

20立方メートルの貯水タンクにセメントを流し込む作業

何よりも、毎日水汲みを含む家事を担っている女性たちが、訪問するたびに笑顔でバナナの素揚げやふかしたキャッサバを用意して待っていてくれる様子から、彼女たちが喜んでくれていることが伝わってきてこちらもうれしくなりました。

安定した水の供給が可能になり、2020年度は苗床の建設が始まります。

(東ティモール事務所 伊藤 淳子)

※この事業は日本国際協力財団からの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。

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