コーヒーチームはコーヒーの収穫期を前に、集落にいってアフリカンベッドを作っている。
アフリカンベッドというのはアフリカ人が寝るベッドではなくて、収穫したコーヒー豆を乾燥させる台のことだ。
高さは1mくらいで、幅90cm×長さ6mの木枠を作り、その上にネットを張る。
ネットの上にコーヒー豆を広げて乾燥させるのだ。
お調子者のアジャイがマウベシの市場に行こうと誘ってきた。
アフリカンベッドに使うネットを買いに行くのだという。
コーヒーチームのリーダー、ネルソンからネットのことは聞いていたので一緒に行くことにする。
なぜ僕が行くのかというと、事務所の現金を管理しているからだ。
スタッフはお金が必要になると、僕のところにもみ手をしながらやってくる。
たまにスタッフには僕の顔が$に見えているのかもしれない、と思うことがある。
ネルソンは
「俺の体にはコーヒーが流れてるんだ。ほら、腕を切ってみろ。コーヒーがあふれだすぜ!」
といっているコーヒー狂だが、人柄はまともでしっかりしている。
そのネルソンからアフリカンベッドに使うネットは2種類あって、ひとつはプラスティック製、もうひとつは金網だと聞いていた。
プラスティックの方はディリから持ってくるので、マウベシで買う必要があるのは金網だという。
マウベシの市場で金網を売っているのは雑貨屋だ。
いくつかある雑貨屋の中でも、品ぞろえが豊富なのは中国人が経営している店である。
中国人は朝から夜まで定時で店を開けているし、探しているものをうまく説明できなくても、スマホで画像検索をして
「これじゃないか?」
と見せてきたりする。
とても商売熱心な人たちなのだ。
それに比べてティモール人の店は開いていたりいなかったり、開いていても店の人がいなかったりで、不安定なことこの上ない。
やる気があるのかもわからない。
領収書を頼むと、緊張のためか手が震えだして、数字に意味不明なカンマをつけたり、0がやたらと多かったりする。
領収書1枚もらうのにもスリル満点だ。
そんなわけで買い物をするときは、最初に中国人の店に向かうことになる。
金網はすぐに見つかったのだが、アジャイに聞いても
「ちがう。これじゃない」
という。
店員にも聞くが、アジャイが探しているものはないらしい。
何軒かそんなことを繰り返したら、雑貨屋に行きつくしてしまった。
マウベシにはないな、と判断して事務所に帰る。
事務所でネルソンと話して判明したのだが、アジャイは金網ではなくプラスティック製のネットを探していたらしい。
「マウン・ダイにも金網だって説明してあるぞ」
とネルソンはいうが、アジャイは
「マウン・ダイは理解してないんだ」
と答えている。
これには温厚で名高い(本当か)僕もさすがにカチンときた。
「俺は店であれだけ何度も、『金網は必要ないのか?』って聞いただろうが」
「プラスティックのがいるのかと思ったんだよう」
「それはディリにあるんだよ。ここで買わなきゃならないのは金網なんだよっ」
「まあ、また買いに行けばいいじゃないか」
「それもそうだな」
というゆるい言い合いの後、市場に戻って金網を買った。
領収書の数字も合っていたし、変なところにカンマもついてなかった。
金網を買うだけで一時間もかかってしまったが、お買い物を終えたアジャイは、大仕事を成し遂げたかのように上機嫌だ。
「バクソ(肉団子スープ)でも食べていくか? マウン・ダイのおごりで」
とか言っている。
東ティモールは水道やガスのインフラもまだ整っていない貧しい国だ。
店に人がいなかったら探しに行かなければいけないし、物価もほかの東南アジアの国に比べたら高いかもしれない。
でも、ふんふんと楽しげに鼻歌を歌っているアジャイを見ているようなとき、ティモール人になりたい、と思うことがある。
(東ティモール事務所 大島 大)