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COVID-19:ロックダウン下のレバノンにおけるシリア難民の苦境【後編】

【前編】からの続き

こんにちは。レバノンの首都ベイルートに駐在中の風間です。前編に引き続き、新型コロナウイルスによる経済への影響や、シリア難民の生活、事業への影響についてお話します。

新型コロナウイルス対応によるロックダウン前のレバノン経済状況

新型コロナウイルス発生前からレバノンはシリア危機以降、不況状態でした。経済成長率は1-2%で推移し、2019年の失業率は25%、25歳以下では37%[1]にもなっていました。過度に輸入に頼る経済構造のため、GDPの550億ドルに対し、その150%の850億ドルの負債を抱え、政府の支出は負債の返済と公務員の給与に消え、毎日3-12時間の停電、ごみ処理が機能しないことによる環境破壊が問題になるなど、基本的な公共サービスもままなりません。一方で、格差は大きく、下位50%の人びとの資産総額が国民所得の約10%しかないにもかかわらず、上位1%が国民所得の4分の1を占めています[2]。そして、こうした問題に対する改革を怠ってきたこと等に対し、国民の不満が爆発し、2019年10月17日以降、道路封鎖、ゼネラルストライキを伴う大規模抗議デモが発生し、経済活動が麻痺した状態が10月から12月にかけて続いていました。

通貨危機も加速します。1ドル=約1,500レバノンポンドの固定レートが、2020年1月から2月にかけては、非公式両替所では2,000-2,400程度で交換されるようになり、多くのレストランなどが廃業に追い込まれました[3]。レバノンでは、レバノンポンドと米ドルの2つの通貨を日常的に使うため、レバノンポンドの暴落は、人びとの生活に大きな影響をもたらします。物価は、昨年10月1日から2月15日の時点で45%も上昇しています[4]。その後、レバノンは3月9日に償還期限を迎えた12億ドルの外貨建て国債の支払いができず、債務不履行(デフォルト)となり[5]、4月に入ってからの交換レートは1ドル=3,000レバノンポンドに達する勢いで、更なる物価上昇が見込まれます。

デモに参加するため、集まった人びと

デモに参加するため、集まった人びと

道路封鎖により、先に進めません

道路封鎖により、先に進めません

【4月27日追記】4月24日、非公式両替所でのレバノンポンドの対ドルレートが4,000ポンド目前にまで下落https://lirarate.com/。多くの在外レバノン人がレバノン国内に住む家族へ送金する際に利用する電信送金の引き出しに関しては、固定レートの1ドル約1,500レバノンポンドでなく、3,625ポンドのレートを適用すると発表したTHE DAILY STAR: Lebanese central bank sets rate of 3,625 pounds per dollar at transfer firms直後でした。

[1] Ghadir Hamdi, Annahar紙 “Unemployment: The paralysis of Lebanese youth”
[2] WORLD INEQUALITY DATABASE, Income inequality, Lebanon, 2005-2014
[3] Yaliban, “785 restaurants shut down, 25,000 employees laid off in Lebanon” 通貨危機により10月以降2月までに785のレストランが閉店。
[4] ASHARQ AL-AWASAT紙,  “Lebanon’s Living Costs Soar over Dollar Crisis”
[5] Dana Khraiche, Bloomberg, “Lebanon to Default on $1.2 Billion Payment, Seek Restructuring”

ロックダウンの影響

こうした状況で、今回の新型コロナウイルスによるロックダウンが実施されています。多くの建設業や農業などの日雇い労働者、その他商店等で日雇いのような形で働いていた人びとは、突然、収入がなくなりました。政府からの保障もありません。急激な物価上昇と多くの世帯が労働収入を失うなか、4月10日に行われたレバノンの国連食糧安全保障セクター会議では、次のようなショッキングな予測が共有されました。

– 2019年のレバノンにおけるシリア危機対応計画(LCRP:Lebanon Crisis Response Plan)では、約80万人とされていた、生きるのに最低限必要な1日当たり2,100キロカロリーを満たす食糧、料理用燃料等を購入するのに必要な金額(SMEB:Survival Minimum Expenditure Basket)以下で暮らすシリア人の人口は、2020年には約120万人に、またレバノン人でもSMEB以下の人口が約40万人から約80万人になる[6]
– その場合、生きるのに最低限の食糧も買えないSMEB以下で暮らす約60万人のシリア難民が、何の支援も受けることができない見込みである。

[6]レバノン人口をざっと600万人(400万人のレバノン人、150万人のシリア人、50万人のパレスチナ難民)とすると、その3分の1が生きるのに最低限必要な食糧すら自力で購入できない状況になるということ。

パルシックの活動

長引く難民生活、経済危機に新型コロナウイルスが追い打ちをかけています。パルシックは昨年11月から開始したベカー県ザハレ郡バル・エリヤス市とバールベック県アルサール市での脆弱なシリア難民世帯への食糧バスケットと灯油の配布を、新型コロナウイルスの影響を受けながらも今年3月まで実施しました。また、バル・エリヤス市において運営している教育センターで、センターに通う子どもたちに給食を提供しました。教育センターは新型コロナウイルスの影響で2月末で閉めざるを得なかったものの、シリアの子どもたちが住むキャンプを主な対象として、衛生用品と食糧バスケットの配布を準備中です。また新規事業として、アルサール市の脆弱なシリア難民に対し食糧バスケットの配布を4月から開始し、イスラム教徒の義務の1つである断食(ラマダン)が開始する4月末に第1回目の配布を予定しています。これらの活動については、また追ってお知らせいたします。

給食を喜びながら食べる子どもたち

給食を喜びながら食べる子どもたち

昨年実施した配布の様子

昨年実施した配布の様子

最後に

日本の皆さんも、6週間の外出制限はいろいろな意味でストレスや負担がかかる時期になるかと思いますが、とにかく皆様のご健康をレバノンより願っています。

(レバノン事務所 風間)

 

 

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