PARCIC

レバノンでのシリア難民への食糧・越冬支援

「シリア難民の身体と心の健康増進に」アルサールのシリア難民キャンプ 食糧支援事業の報告

アハラン!キフコン?(アラビア語のレバノン・シリア方言で「こんにちは!元気ですか?」の意味です。)2020年も残すところあと1週間余りとなりました。レバノンは11月から雨が降り始め、大雨になることもしばしばです。この地域の方言で、「雨(シター、シティ)」という言葉と「冬(シター)」という単語が似ていることからも、冬は雨期であることがうかがえます。

それでは本題に入りましょう。今回はレバノン北東部アルサール市で実施した食糧支援事業のその後をお伝えしようと思います。

事業概要を手短に説明すると、

– 長引く避難生活等により経済的に厳しい状況に置かれ、食糧不足の状態にある
– 安価で腹の膨れる炭水化物等ばかりを摂取し、必要な栄養が摂取できていない(子どもが体調を崩しやすい)

という状況を、食糧バスケットの配布、家庭菜園、栄養研修の実施によって改善するというものです。

食糧バスケット配布

まず、収入源がない、女性世帯主など脆弱性の高いシリア難民の350世帯に、5月、6月、7月、10月の各月に1回25ドル分の食糧バスケットを配布しました。物価の急激な上昇と新型コロナウィルス対策で外出制限もかかり、収入機会が特に限られる中で支援を受け取った人びとからは「食糧バスケットがあって助かった」、「定期的に食糧配布があったため心の安定につながった」という声を聞くことができました。

新型コロナウィルス感染対策をとって配布を行いました。

食糧バスケットを受け取る女性

家庭菜園

また、新鮮な野菜やハーブを自給して購入せず食べられるようにすることで少しでもバランスの取れた食事ができるよう、食糧バスケット支援対象者の内、妊婦や乳幼児を抱える女性に対し、野菜の種・苗やその他必要な器具を配布するとともに、作物の育て方や収穫方法を指導しました。レバノンでは、新型コロナウィルスの感染拡大により外出制限が課され、多くのシリア難民が、狭く仕切りもないテント家屋で仕事も収入もないまま一日を過ごすしかない状況でした。しかし、パルシックが支援した女性達は、時に子どもが嫉妬するほど家庭菜園に熱心に取り組みました。研修講師が生育状況を確認するためキャンプを訪問した際には、次から次に「自分の菜園にも来て下さい!」と講師に声をかけ、「うまくいっていますね」と褒められるととてもうれしそうな表情を見せ、改善点のアドバイスにも熱心に耳を傾けていました。

家庭菜園講師のアドバイスを熱心に聞く女性と子

その結果、調査対象者の100%が、ナス、豆、トマト、レタス、コリアンダー、ミント、ピーマン等、何らかの野菜やハーブを収穫し食べることができました。またピーマンを3キロ、トマトを1キロも収穫できたという方、家庭菜園から収穫した野菜やハーブは「おいしかった」と言う子どもにも出会うこともできました。

幼い子どもを抱えながら自分の家庭菜園を説明してくれた女性。テント脇に植えられたトマトが育ち、実がなっている。

研修の終盤では、コンポストを利用した肥料の作り方も指導しました。レバノンでは肥料を外国から輸入しており、シリア難民にとって肥料を購入して家庭菜園を続けることは現実的ではないため、継続できる方法を学ぶ必要があるからです。研修終了後、実際にコンポスト肥料づくりにトライしている方も確認でき、パルシックの支援が終了した後も家庭菜園を継続する世帯が出てくることが期待できそうです。

栄養研修

家庭菜園研修を受けた妊婦・乳幼児を抱える女性に対し、栄養に関する研修も行いました。 妊婦や母乳育児をする女性は、どのような栄養を取る必要があるのか、どのような食材に必要な栄養素が含まれていて、比較的安価に手に入る食材は何かを学びました。併せて、食材に含まれる栄養素をいかに無駄にせず、配布する食糧や家庭菜園で採れる野菜やハーブも活用しながら、どのような料理を作ることができるのかについても学びました。

例えば、経済的に肉を買う余裕が無い中でもタンパク質がとれ、若い女性が不足しがちな鉄分を補給できるスープレシピを紹介しました。タンパク質を多く含むが肉よりは安いレンズマメを使ったスープに、鉄分の多いセレク(スイスチャード)などの葉物野菜入れます。ただし、葉物野菜は栄養が流れ出ないように切る前に洗い、大きめに切ってスープに入れ、更に鉄分の吸収をよくするビタミンCを含むレモン汁を加えるというものです。

参加者からは、栄養を考えて「家庭菜園で作ったトマトで離乳食を作り幼児に与えた」、「サンドウィッチにピーマンやトマトを入れるようになった」という声を聞きました。アンケートの結果「研修が家族の健康を促進するのに役立ったと思う」と答えた女性の割合が100%に達し、非常に高い評価を得ることができました。

栄養研修の様子。講師は対象者に配慮し女性が務め、研修は半屋内の風通しの良い場所を借り、マスクをつけるなどして新型コロナウィルス対策を行った。子どもを連れてでも参加する方が多く、関心の高さがうかがえた。

影響

食糧支援事業では大抵食糧を配布して終了というものが多い中、今回は家庭菜園を取り入れたことにより支援対象者世帯への良い影響がありました。

研修参加者へのアンケートでは「研修を受けた本人や子どもが精神的に安定した」と回答した女性が9%、「近所の一緒に研修を受けた女性とよりコミュニケーションをとるようになった」と回答した女性が26%、また「家族内の不和が減った」と回答した女性が50%も存在しました。

家庭菜園は、家族で一緒に植物を育てるという楽しみとなり、家族内やご近所との共通の話題になります。うまく育てば貴重な食糧にもなり、緑の少ない荒涼とした難民キャンプを緑化することにもつながります。これらにより特に脆弱性の高い妊婦や乳幼児を抱える女性達の精神的な健康を増進することができました。また、レバノンでは、新型コロナウィルス拡大以降、将来が見えない状況下でストレスを抱えた夫等による家庭内暴力に関する相談の電話が51%増加していることが治安警察によって報告されています。家庭内の不和を減らすことで、女性や子どもが家庭内暴力を受けるリスクを減らすことにも貢献できたと言えます。

荒涼とした大地に広がるアルサールの難民キャンプ

家庭菜園の緑を眺める子ども。家庭菜園の緑は、癒しにもなる。

さて、当事業は2020年11月30日をもって終了しましたが、10月からはアルサールのシリア難民の子どもたちを対象にした教育事業、またベイルート大規模爆発で被害を受けた人びとに対する支援事業が開始しています。さらに、冬の寒さが厳しいアルサール市において難民キャンプのテントで暮らすシリア難民に対する越冬支援寄付キャンペーンも行っておりますので、こちらもご注目下さい。 それではまた!

(レバノン事務所 風間)

※この事業はジャパン・プラットフォームからの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。

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