みなさんこんにちは、インターンの山田です。
私がレバノン事務所でのインターンを開始して間もない2019年7月1日、政府軍がレバノン北部のアールサールという場所にある難民キャンプで、20棟のシェルター(住居)を強制的に破壊したというニュースが飛び込んできました。その1か月後の8月8日と9日には、北部アッカールという地域で、再び軍によって350棟のシェルターが破壊されました。
これに先立ってレバノン政府は、とある法律を公布しています。それは、難民が生活するキャンプなどの場所で、高さ20cm以上のコンクリートを使用したシェルターを禁止するというものです。具体的には、20cm以上の高さに木材及びビニール製(テントの幕など)以外の素材を用いた仮設住宅が破壊の対象となり、シリア難民はこうしたシェルターを期限までに自主的に破壊するよう求められました。この法律は、シリア難民にどう影響を与えるのでしょうか。
報道のあった北部アールサールやアッカールでは、冬になると大量の雪が降り積もります。また、大雨による洪水被害なども難民キャンプにおける大きな問題となっています。この地域で難民が生活していくうえで、コンクリートブロックの頑丈な壁など、外の寒さを防ぎ内部の熱を逃がさない住居構造は欠かせません。そうでないと、冬を乗り切ることができないからです。こうしたシェルターを壊して新しい基準を満たす家を作るとなると、柱や枠組みは木材、壁はビニール製の幕といういわゆるテント生活になってしまい、室内であっても厳しい寒さと隣り合わせになってしまいます。もともとテント暮らしをしていて断熱材などを壁に貼ることで寒さに対応してきた人たちであれば、ある程度の気候には耐えうるかもしれません。しかしながら、それまで住んでいた比較的快適なシェルターを失った人にとって、断熱材もないゼロからの冬の生活は困難を極めるでしょう。
コンクリートで補強されたある程度頑丈な家に住んでいる難民は、シェルターの耐久性の観点からいえば、半永久的にその家に暮らすことができます。それが政府によって禁止されてしまった今、難民の生活は危機にさらされています。今年の冬の厳しさによっては、シェルターに留まり続けることができなくなった人びとの中で、レバノンからシリアへと帰還する動きが活発化するかもしれません。また、十分な支援が得られず新たに家を建て直す余裕のない人は、それ以上その土地で暮らし続けることができません。実際パルシックの事業地でも、多くの人びとが対象となった家を自主的に破壊し、別のキャンプ地でのテント生活を余儀なくされているそうです。
今年の冬には、テント生活で冬を乗り越えざるをえない例年以上に厳しい環境下におかれたシリア難民が、多くの支援を必要としています。パルシックは、こうした人びとに食料を配給したり、毛布や灯油など配布を行う越冬支援を、昨年度同様実施する予定です。
(インターン 山田蒼太)