パルシックは2017年からシリア難民の子どもたちに教育の機会を提供すべく、ベカー県において教育センターを運営してきました。
3年目となる2019/2020年度は、問題が次々と発生し、教育センターを継続することが困難な状況が続きました。
2019年10月には、レバノン政府に対する大規模抗議デモが発生しました。 政府が、無料通話アプリ(WhatsAPP)の利用に対する課税を発表したことを発端に、低迷する経済と既存の政治体制への市民の不満が爆発したのです。抗議デモは、1か月ほど継続し、新学期が始まったばかりの教育センターも閉鎖せざるを得なくなりました。[1]
その後、11月に入り教育センターは再開しましたが、レバノンで初めて新型コロナウィルスの陽性者が確認されたことを受け、2020年2月末に教育センターを再度閉鎖することになりました。3月15日には、新型コロナウィルスの感染拡大防止対策の一環として厳しい外出制限を含む新型コロナウイルス感染拡大防止措置(総動員令)が発令されました。[2]外出制限により、日雇いなど非正規雇用で収入を得ていた難民は稼ぎを失いました。学校は閉鎖されたまま、子どもたちは、教育センターの再開をキャンプの中で待つ日々が続きました。
このような状況下で、パルシックは、子どもたちに教育機会を提供する方法を提携団体と相談し、4月から遠隔授業を開始しました。遠隔授業では、週に一度課題を配布し、回収した課題を教師が添削し学習のフォローアップを行います。さらに、教育センターの閉鎖に伴い給食を食べることが出来なくなった子どもと、収入がなくなり日々の食事に事欠くようになった世帯に食糧バスケットと感染対策用の衛生用品を配布しました。
今学期は2020年9月に終了しましたが、最後まで教育センターを再開することは出来ませんでした。2020年8月4日に発生したベイルート港の大規模爆発によって、政府機関が機能しなくなり、人の行動を制限できなくなったことから、一気に新型コロナウィルスの感染が拡大したのです。
不測の事態が次々と起こり、仕方がないとは理解しつつも、教育センターを再開できなかったことはとても残念なことでした。遠隔授業により学習の部分は補うことが出来ますが、教育センターに通うことで友達と遊んだり、体育や音楽など基礎科目以外の教科を学んだり、子どもたちが感情や情緒を育む場を提供できないことが非常に心残りでした。
一方で、良いニュースもありました。遠隔授業で就学前教育(日本では幼稚園に当たる)を受けた子どもたちが、所定のカリキュラムを修了したことが教育省から認められ、小学校への入学資格を得ることが出来たことです。 それ以外に、保護者からも嬉しいフィードバックがありました。 「避難生活により、長い間子どもたちが教育を受けることが出来ず、テントの中で毎日何もせず過ごしていました。教育施設の閉鎖に伴い、子どもたちが以前の何もしないでテントにいる状況がしばらく続くであろうと予想していたが、毎週教師が教材を配布してくれたおかげで、子どもたちは毎日有意義に過ごすことができ、とても嬉しかった。」と言われました。 子どもたちも、毎週受け取る新しい教材を楽しみにしている様子で、課題配布日にはキャンプの入り口でどの教師が配布に来るのか楽しみにして待っている姿もありました。
シリアやレバノンの未来を創っていく子どもたちが教育の機会を得ることは非常に重要なことです。ベカー県での教育支援は、今期で終了となりますが、北東部アルサールで新たに教育事業を開始し、これからも教育の機会を失った子どもたちに学ぶ場を提供していく予定です。
[1]レバノンでは、新学期が10月に開始します。
[2]総動員令は、感染状況により制限が緩和及び強化されたが、公共施設の閉鎖、マスク着用の義務、夜間の外出制限、車両運行に関する制限などの規制が、2020年12月31日まで継続されていた。
※この事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成および皆さまからのご寄付により実施しました。