PARCIC

シリア難民への教育支援事業

経済危機、コロナ禍、物価高騰の3重苦にあえぐレバノンで食糧品と衛生用品を配布しました

世界中でコロナ禍が続いていますが、レバノンは最も激しい危機にさらされている国の一つと言っていいでしょう。2019年10月、山積する問題に対して、何の対策も行わなかった政府に対する民衆の不満が爆発し、全土で大規模な抗議活動が始まりました。その後、レバノン経済は坂道を転がり落ちるように悪化し、今年の3月には、レバノンは、公的債務(約9.6兆円)のうち支払い期限を迎えた債務に対する不履行を宣言し、事実上の経済破綻に陥ってしまいました。そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウィルスです。ほとんどの店舗が数か月以上にわたって、ほとんど公的支援もないまま、閉店だけを余儀なくされた結果、失業率は40%、インフレ率は約40倍[1] 以上に膨れ上がり、経済危機と物価高騰の上にコロナ禍と、民衆は何重もの苦しみに喘いでいます。

レバノンは1975年から15年続いた内戦以来の危機に直面しており、現地通貨の急激な下落を受けて、国民の60%を占めると言われた中産階級の月収は約5分の1[2] まで減少、社会不安がいたるところに広がっています。そんな中、国連やNGOから支援を受けているシリア難民に対して、レバノン市民が立ち退きを要求したり、暴行を加えたりするといった事件も発生しています。しかし、そんな状況の中、シリアに帰還する予定だと答えているシリア難民はわずか1%[3] に過ぎません。どれだけレバノンが過酷な状況になろうとも、シリア国内が安定しないために、この国で黙って耐えていくしかないのが、シリア難民の置かれた現状なのです。

国連が今年の5月にまとめた報告書によると、シリア難民の97%が借金をしており、毛布など手元にあるものを手当たり次第に売って、わずかの食糧を得るというような生活を強いられています。そこで、パルシックでは、教育センターに通う子どもたちが住んでいるキャンプ565世帯(約3100人)に対して、食糧の配布を行いました。さらに、新型コロナウィルス感染対策として、マスクやグロープ、石鹸なども、600世帯(約3300人)に対して配布しています。

明日のパンすら購入できない母親は、「夫がコロナ禍によって、仕事を失った。この食糧品で、なんとかしばらくの間、子どもに食べさせることができる」と語った。

米やパスタ、油、豆などの12品目(50ドル相当)を配布

マスクや石鹸など、新型コロナウィルス感染対策の必須アイテムを配布

今後、数か月の間に、物価高騰と物資欠乏のため、レバノンではパンすら購入することができなくなると予想されています。パルシックでは、難民を飢餓から守るため、食糧配布に取り組んでいきます。

パルシックが提携団体と一緒に運営している教育センターは、レバノン教育省の通達に従い、新型コロナウィルスの感染予防のため2月末より閉鎖しています。7月時点でも教育省が指針を立てていないため、再開の目途はたっていません。パルシックでは、4月より遠隔による教育支援を継続しており、基礎科目の課題をシリア難民の教員が作成しては、週ごとに子どもたちの家庭に配布し続けています。子どもたちは一週間かけて課題に取り組み、その次の週に課題を提出すると共に、新しい課題を受け取ります。自宅での学習には、保護者の役割が重要になってくるため、教員は定期的に連絡を取りながら、相談を受けたり、子ども達の様子について聞いたりするようにしています。シリア難民の保護者の多くは、英語の読み書きができないため、翻訳アプリの使い方に関する説明を保護者に対して一斉に行ったりもしました。子ども達は、教員が課題を持ってくるのを、自宅の前で立って待っているほど楽しみにしており、テレビも娯楽もない生活の中で、学ぶことに喜びを見出しながら、この非常に困難な状況の中、たくましく生きています。

課題を受け取って喜ぶ姉妹。「おはじきで遊ぶのが大好きなの」と語る

教員が自宅で子どもたちが学べるように工夫して作成した課題。わからないことは、生徒が教員の訪問時に聞いたり、課題に質問を書いて先生から返事をもらうこともできる。

社会的不安が蔓延する中、多くのシリア難民の保護者や教員がかなりの不安やストレスをかかえながら、毎日を過ごしています。国連の報告書によると、1~14歳のシリア難民の子どものうち、約50%が何らかの身体的暴力などを受けており、60%が心理的な暴力や攻撃などを経験[4] していると言われています。特に、新型コロナウィルス感染対策に伴い自宅待機を要請されるようになってから、教育支援を行うNGOからも家庭内暴力の増加が多数報告されています。そこで、私たちは、臨床心理士を雇用し、保護者に対してオンラインでの心のサポートワークショップを行っています。また、教員に対しては、少人数ずつ教育センターに集め、ストレスへの対応方法や保護者への接し方、いじめなどの問題に対する対策について学ぶためのワークショップを定期的に実施しています。遠隔による活動や物価高騰による資金不足など、NGOが直面している課題はたくさんありますが、私たちは今できることを、難民の子どもたちに確実に届くような方法で継続して実践していきます。

現地通貨が昨年10月時点から6倍以上に下落している中、教員らもかなりの不安とストレスを抱えている。臨床心理士によるセッションを受けながら、子どもらが一人でも理解できるような課題を次々と作成している。

[1]https://tradingeconomics.com/lebanon/inflation-cpi
[2]https://www.arabnews.com/node/1695801/middle-east
[3] Monitoring of the Effects of the Economic Deterioration on Syrian Refugee Households (MEED – Syrians) Wave 1 (March 2020) P.11
[4]VASYR 2019 – Vulnerability Assessment of Syrian Refugees in Lebanon P.12

(レバノン事務所 南)

※この事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。

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