スリランカでは9月21日、北部州、北西部州、中央州の3州で、州議会選挙が行われました。中でもパルシックが活動を行っているムライティブ県やジャフナ県が属する北部州の州議会選挙は、25年ぶりに行われる選挙として注目が集まりました。
すでにスリランカ国内で、タミル人の権利を求めて戦う武装勢力と多数派シンハラ人との間での暴動や騒乱が各地に広がっていた1987年、停戦を目的として結ばれたインド・スリランカ和平協定の内容に基づき、州議会法が制定されました。各州に州議会が置かれることが定められたと同時に、この時修正された憲法により、州議会に一定の自治権が認められました。1988年末、当時暫定期に1つの州として合併していた北東部州でも州議会選挙が行われ、議長が選出されましたが、インドによるこの調停は停戦に結びつかず、1990年、インド平和維持軍の撤退を機に、北東部州議会は解散させられ、その後今回の選挙まで、北部州では議会の不在が続きました。
今回、25年ぶりに北部州で選挙が実施されることになった背景には、インド(特にタミルナドゥ州)、国連や英連邦(イギリスとその旧植民地国による連合体)など、国際社会からのスリランカ政府への強いプレッシャーがあると言われています。それでも、多数派であるシンハラ人の政党や団体からは、タミル人多数の州議会が生まれることをおそれ、選挙実施前に修正憲法や州議会法の無効化を求める声が上がるなど、根強い反発が続き、選挙の日程がなかなか決まりませんでした。
北部州には、ジャフナ、キリノッチ、ムライティブ、ヴァヴニア、マナーの5県があり、約70万人が北部州の有権者として登録されています。そのうちの半数以上である約40万人がジャフナ県の人々。人口に応じて各県から選出される議員の数も決まり、ジャフナ県からは、38人の州議会議員定数のうち16人、ムライティブ県からは5人の議員が選出されました。
候補者を出す政党は、その県で決められた数の候補者を用意することになっており、ジャフナ県の場合、19名の候補者を各党が送り出しました。投票をする際は、まず、数ある政党の中から1つの政党を選び、その政党の中から3人の候補者まで投票することができます。このようにして投じられた票を計算し、得票数が多い順に当選者が決まっていく、という仕組みだそうです。スタッフがサンプルとしてジャフナ事務所にチラシを持って来てくれた候補者は、元漁協長、学校の先生、県庁役員などの人々でした。
21日の選挙の結果、北部州ではタミル人を代表する最大の政党、タミル国民連合(Tamil National Alliance:TNA)が、シンハラ人政権与党である統一人民自由同盟(United People’s Freedom Alliance:UPFA)を抑え、38議席中30議席を獲得し、北部の人々念願の、タミル人による州議会が誕生しました(TNA30議席、UPFA7議席、スリランカムスリム会議1議席)。タミル国民連合は今回の選挙に際し、現在政府が掌握している土地利用に関する権利と警察権を、修正憲法に基づき州議会に移すことを掲げており、州議会への人々の期待が高まっています。
ムライティブでも、内戦終了後の土地問題はいたるところに存在します。終戦から3年が経った今も、政府軍によって占拠されたままの広大な土地のほか、避難民となっていた間にシンハラ人の手に渡り、戦後、土地の権利書と共に戻ってきても返してもらうことができない農地など、タミルの人々は内戦を経て多くの土地を失っており、州議会の誕生がそれらの土地を取り戻す契機になることを強く望んでいます。
今回、わずか数件の候補者への襲撃や嫌がらせ、選挙当日の妨害があった以外は大きな混乱がなく選挙が終わったことは、スリランカ、特に北部の人々にとっての希望になりました。ただし、25年ぶりに成立した北部州議会が、どこまで人々の期待にこたえ、様々な問題を解決してゆくことができるのかは未知数で、今後の動向を引き続き見守っていかなければなりません。
(ムライティブ事務所 伊藤文)