ジャフナのシンボル的存在 ナルー・テンプル
サリーやサルワル(パンジャービ・ドレス)で着飾ったたくさんの人びと
ジャフナの7月、8月はお祭りの季節です。多くのヒンドゥー寺院で各々のお祭りがあるだけでなく、キリスト教の各教会でも大きなお祭りがあります。中でも、ジャフナで最大のイベントは、ジャフナ最大のヒンドゥー寺院で、シンボル的存在であるナルー・テンプルのお祭りです。毎年スリランカ中からのべ100万人以上の人びとが訪れるとも言われます。お祭りの日程は毎年タミル・カレンダーに沿って決められ、25日間行われます(今年は7月24日から8月17日まで)。
このナルーテンプルのお祭りの時期には、ヒンドゥー式の断食をして朝早くからお参りをする人が多くいます。パルシック・ジャフナの女性スタッフの1人も毎朝4時に起きて寺院に出かけ、5時から約1時間かけてお祈りをするそうです。この間は正午になるまで食事をとらず、それ以降に食べる食事は菜食のみです。
筆者は昨年初めて同僚の女性スタッフのアネシャと、このお祭りに行きました。最終日の午前中で、既にサリーやサルワル(パンジャービ・ドレス)で着飾った多くの人びとで寺院の回りは埋め尽くされていました。その日初めて寺院の中にまで入り、アネシャからお参りの仕方、この寺院の神様の名前、他の神様との関係、寺院の中に描かれている絵のストーリーなどなどの説明を受け、ヒンドゥー教のいろはを学びました。さらには、最大のイベントである特別なお祈り(スペシャル・プジャー)も経験しました。偶然その場に居合わせた私たちでしたが、スペシャル・プジャーが始まる前になると、急に多くの人びとが寺院の中に詰め掛けてきて、人びとに押しつぶされ、私たちを含めた多くの人びとが倒れこむほどでした。ヒンドゥー教徒の人びとは運ばれてきた神様の像に真剣にお祈りをささげ、寺院の中は特別な熱気と神聖な空気に包まれました。その興奮と熱気、人びとの真剣さは、ヒンドゥー教の意味をほとんど分かっていなかった外国人の私ですら、特別な感慨を抱くものであり、人生において初めて経験するものでした。
お祭りのときの男性の正装、腰にワーティを巻く
昨年の経験が忘れられなかった私は、今年もナルーテンプルのお祭りが始まると、気持ちが高揚します。なかなかお参りに行けなかったのですが、最終日の前日に、昨年と同じくアネシャとお参りに行ってきました。お祭りのときの正装は女性の場合はサリーで、男性は腰にワーティと呼ばれる腰布を巻いて上半身は裸になった姿です。今年も人びとの熱気と真剣な祈りを目の当たりにしながら、私もお祈りをしてきました。
なお、このナルーテンプルのお祭りの時期には、多くのディアスポラ[1]のタミル人たちが、欧米諸国からスリランカに戻ってきて、町がにわかに活気付きます。私たちの干物もジャフナの町の干物店で高値で取引され、お店から毎日のように「もっと売ってほしい」と督促の電話がかかってくるほどです。干物だけではなく他の様々なものも高値でも売れるようで、同僚スタッフは「野菜も魚も市場で値段が上がっていた」とぼやいていましたが、国を離れた人びとが数年ぶりに戻ってくることは嬉しいことであり、ジャフナの人びとにとってもディアスポラの人びとにとっても大切な時期です。
ナルーテンプルのお祭りが終わると元のジャフナの町に戻ります。そして、2ヶ月もすると10月後半からは雨季が始まります。日本のようには四季のないジャフナですが、各々のお祭りがそれぞれの季節の変化を告げているようにも感じます。
(パルシック 西森光子)
[1]ディアスポラ・・・もともと暮らしていた場所を離れて暮らしている人や家族、コミュニティのこと。