パレスチナのガザ地区では、2018年1月から2022年2月まで、貧困女性世帯を対象に羊の酪農支援を行ってきました。2022年3月からは、その後継事業として、「ガザ地区ハン・ユニス県における羊の畜産事業」を開始しています。
ガザ地区は2007年からイスラエルの軍事封鎖下にあり、人や物の移動が大きく制限されています。加えて、イスラエルとガザの間では数年おきに武力衝突が起きており(昨年5月のガザ空爆のニュースを記憶している方も多いと思います)、物資不足やインフラ等の破壊で、長期的な経済発展が阻まれています。その結果、失業率は高く、人口の約6割は食糧不安の状態にあります。こうした状況の中でパルシックは、畜産事業を通して農家の生計向上や地域の食糧保障に寄与したいと考えています。
本事業の対象者は、小規模の羊農家(所有する雌羊の数が3頭以下)です。畜産の経験があり、意欲が高いものの、羊小屋が老朽化していたり、飼育に不適切な小屋を使用してたり、あるいは畜産に関する十分な知識やスキルがないといった羊農家を対象に、2022年3月から3年間計画で、羊小屋の建替え工事や羊の配付、畜産技術研修の提供、飼料作物の栽培支援などを行います。
地域としては、ガザ地区のハン・ユニス県にある3つの村(アル・マワーシ村、アル・マナーラ村、アル・カララ村)で、計80世帯を支援する予定です。
(※1年次はアル・マワーシ村とアル・マナーラ村で事業を開始、2年次からアル・カララ村を追加します。)
2022年3月には、アル・マワーシ村とアル・マナーラ村の2村で新事業の説明会を行い、事業への参加希望者を募りました。その後4月から、パルシック職員が希望者の家を実際に訪れて調査し、参加世帯の選定を行いました。
参加世帯の選定が完了した後、9月末から、羊小屋の建替え工事を行いました。畜産専門家がデザインし、建設業者と綿密に打ち合わせて作った新しい羊小屋はとても評判が良く、参加者たちからも喜びの声が上がっています。
羊小屋の完成に合わせて、10月下旬から11月上旬まで、1回目の畜産技術研修を行いました。小規模な羊農家では、家庭の男性・女性、いずれもが飼育に参加するのが一般的です。しかし、家父長制や男性優位の価値観が残るガザでは、女性たちは外出の機会が少なく、畜産に関する研修を受ける機会もほとんどありません。
そこでパルシックは、各世帯から男性・女性1名ずつ研修に参加してもらい、女性も平等に研修が受けられるようにしました。男女を同じ部屋に入れて一緒に研修をすることが文化的に困難であるため、男女それぞれに、時間帯を変えて研修を実施しています。
1回目の畜産技術研修が終了した後、各世帯へ羊の配付を開始しました。今後は、地元の獣医やパルシックの畜産専門家が各羊小屋を巡回しながら、モニタリングや指導を継続していきます。
また、世界的に飼料価格が高騰する中、飼育コストを抑えて持続的な畜産を可能にするため、飼料作物の栽培も始めました。近隣の3~7世帯で1つのグループを作り、共同でパニカム(イネ科の植物)を育てています。刈り取った草は、一部は青草のまま使い、残りは干し草にして、草の生えない夏場や厳しい冬のために備蓄する予定です。
この他にも来年1月には、女性たちを対象に、乳製品作りを学ぶワークショップを計画しています。羊農家の能力向上や生計向上のため、引き続きがんばります!
(西岸事務所 橋村)
※この事業は外務省NGO無償連携資金協力の助成および皆さまからのご寄付によって実施しています。