PARCIC

ガザ空爆被災者への食料物資支援と農家の生産再開支援

パレスチナ事業終了報告:2021年5月空爆被災者支援

2022年8月5日、パレスチナ・ガザ地区でイスラエルとの軍事衝突が起こり、3日間続いたイスラエル軍の空爆により、幼い子ども15名を含む44名が亡くなり、360名以上が重軽傷を負いました。2021年5月の11日戦争から1年あまり、ガザは再び戦火となったのです。遅々として進まない復興でも、少しずつ家屋の再建や破壊されたインフラなどの修復作業が行われてきた中でした。

パルシックは昨年2021年戦争の後、7月から緊急支援を開始し、空爆被害の大きかった北ガザ県とガザ県で小規模農家を対象に、食料配付と農業復興支援を行いました。この時期支援の多くが同地域に集中しましたが、その他の地域が戦争の被害を免れたわけではありません。2022年2月から8月まで、復旧の進んでいなかった中部ガザ県の4村を対象に、パルシックは第2期目となる農業復興支援を実施しました。事業では、被災した小規模農家102世帯を対象に、灌漑パイプや肥料を配付しました。圃場の整備や配付したパイプの設置には、空爆により職を失った日雇い労働者50名を雇用し、作業をしてもらいました。さらに、空爆の被害を受けた地域住民が共同で利用している水路3㎞の修復も行い、農業再開に欠かせない農業用水の確保に寄与しました。また、昨年7月の支援と同じく、空爆と検問所封鎖の影響を一身に受けた養鶏部門の生産再開を後押しするため、地域の養鶏農家50世帯を対象にひなや飼料の配付を行いました。

事業の終盤にかかり、今回の軍事衝突が勃発し、一時作業を中断しましたが、停戦後無事にすべての活動を終えることができました。
再建と破壊を繰り返すガザ地区で、何かを続けることは決して簡単ではありません。それでも今回支援を受けた農家のなかには、大家族を支えながら自らのビジネスを続ける女性農家の姿がありました。

 

デイル・バルート県アル・へケール村に住む女性養鶏農家
アジーザ・アブ・アムラ(Aziza Abu Amrah)さん(51歳)

アジーザさんは、聴覚障がいがある夫と、6男5女の家族の大黒柱です。2014年の戦争復興活動の中、2016年にパルシックが実施した農業事業において、鶏のひなや家畜資材を受け取って以来、自立して養鶏ビジネスを続けてきた女性農家です。

私は18歳の時に結婚しました。小学6年生までは教育を受けましたが、読み書きの能力は子どもたちから教わりました。大学に進学した子もいて、一人はアラビア語の学士号を取得、もう一人はコンピュータサイエンスを勉強するために1年間工学を選考しましたが、経済的な理由で勉強を延期せざるを得ませんでした。

2016年、私はパルシックの事業に参加するチャンスを得て、養鶏を始めました。私は困難な状況に置かれても、お金を求めてCBO(Community Based Organization)にすがりつくことはしません。私にもプライドがありました。2016年のある朝、息子が「地元NGO(RAWDS)が日本の団体パルシックの資金提供を受けて、事業裨益者の募集を開始したって。配付物のひなやウサギ、育てたいものを選べるらしいよ」と教えてくれました。私はいつも自分のビジネスを持ちたいと思っていました。それを達成するチャンスと思い、応募の取りまとめをしていたCBOに行き応募しました。最初の一歩を踏み出したのです! 150羽のひな、飼料、おがくず、ガスボンベとヒーター、水槽、飼料貯蔵タンク、餌と飲料用のトレイ、農場を覆うためのナイロンシート、さらに獣医サービスと薬も受け取りました。養鶏ビジネスを継続していくために必要なものばかりでした。

2016年以来、私は食肉用の鶏の飼育を続けました。私は鶏肉を近所の鶏肉店に販売し、十分な利益を得ることができました。150羽から始めたひなは600羽まで増え、ビジネスが軌道に乗りました。娘に、最初の利益から分割払いでノートパソコンを買い、ビジネスを継続するために200羽のひなも購入しました。ひなたちが走り回る姿や、食べる量など鶏の様子を細かく観察することで、薬をできるだけ買わないように気を付けています。自分で配合したハーブを鶏の免疫力アップに使っています。ハーブを煮出して鶏に飲ませるんです。普段、利益の一部は次のシーズンのひなを買うためにとっておいて、残りで食料品や野菜、掃除や衛生用品を買っています。

しかし、2021年、イスラエルの侵攻は私の生活に大きな影響を与えました。販売前でよく肥えた鶏60羽を失いました。ミサイルの音で、鶏が恐怖で空中を飛び回り壁や地面に激突したり、心臓がショックで止まったりして死んでいく姿を見るのは本当に辛かったです。薬を買いたくても、動物病院は閉まっていることがほとんどで、開いている日も営業時間が短く、午後に徒歩で行くしかありませんでした。今回の緊急支援事業で、200羽の鶏のひなと飼料を受け取りました。今日でひなは31日目です(※インタビューは2022年7月24日に行われました)。イード・アル・アドハー(犠牲祭)の期間は(7月9日~12日)、羊や牛肉の需要が増える一方で、鶏肉は需要が減ります。そのため鶏肉の市場価格は落ち込んでいますが、あと10日後には販売する予定です。

養鶏ビジネスを始めて、私の性格も変わりました。以前は、地域の人びとも私のことを知らず、ビジネスを運営する知識もありませんでしたが、今では息子たちが私のビジネスのパートナーになりたいと言うほど、うまく運営できるようになりました。もちろん女性ならではの困難もあり、女性だからという理由で、孵化場からひなを買うときに業者が値段をつり上げてくるときもあります。そういう時は、男性の仲介業者に電話して協力してもらい、代わりに安い値段でひなを買ってもらいます。私は、女性たちがもっと色々な分野に参加して、決してあきらめず、成功するまで挑戦し続けるべきだと信じています。

鶏小屋の近くでパルシック・ガザスタッフ(左から2名)のインタビューを受けるアジーザさん(右)

笑顔で鶏の説明をするアジーザさん

鶏の水飲み場につながる水道チェックはアジーザさんの毎日の日課です

生後31日目の鶏たち。出荷まであと10日。