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3年ぶりに開催!マレーシア、多民族共生社会を訪ねるフィールドワーク

今夏、マレーシア ペナンで「多文化共生・環境問題」を学ぶフィールドワークを3年ぶりに実施しました!清泉女子大学の1年~3年生14名の学生さんに同行して、このフィールドワークに参加してきましたのでご報告します。

プログラムの内容については、ぜひ、下記のスケジュールをご参照ください。

多民族・多文化の共生とは

マレーシアは、その国の成り立ち、歴史からマレー系、中華系、インドタミル系の3つの民族グループが共存する国です。(このほかに先住民、移民もいます)このことは一般的にもよく知られていますし、実際、旅行でマレーシアを訪れたとしても「街のこの辺は中華街みたいだな」とか「イスラムの国なのにヒンドゥー寺院があるな」と容易に気付くことができます。

しかし、ただ単にいろんな民族の人がいる「共存」(日本も最近多くなってきましたよね)と多民族が「共生」する社会とは違うことなのだとこのフィールドワークは考えさせてくれます。

<出会った人びと(一部です。全員は紹介しきれていません!)>

SDGsのすべての目標を学校のプログラムに入れ実践しているインド系小学校。タミルの伝統の踊りや遊びを子どもたちが教えてくれた

英語講師のギャレス(写真中央右)。イギリス人と中華系マレーシア人(プラナカン)のハーフ。授業を通して「民族のアイデンティティとは何か」を深く考えさせてくれました

マレーシア科学大学(USM)の学生とグループワーク。学生同士の自己紹介で「好きなもの」としてK-POPのグループ名があがったら、「私も!私も!」と一気に打ち解けていました。K-POPは世界の共通語ですね♪

ホームステイをした村の朝、いきなり始まったマレーシア版ラジオ体操。マレーシア国歌に合わせてキレキレのダンスを披露してくれた娘さんたち

ジョージタウンの街を歩けば、モスク(インド系イスラムとマレー系イスラムの2種類がある)、中国寺院、ヒンドゥー寺院が狭い範囲に共存し、学校も文化も宗教も、人びとはその出自の民族に分かれて暮らしているように見えます。しかし、それぞれが複数の言語を習得し、そのためお互いのコミュニケーションには基本問題なく、レストランや屋台に足を運べば、民族に限定されることなく人びとはいろんな料理を楽しんでいます。

ジョージタウンはウォールアートで有名

マレーシアでは、マレー系を優遇する政策がとられていることは有名ですが、それは大学の入試や職業など、さまざまな面に及んでいるといいます。実際、滞在していると、たとえばホテルの人はインド系の人が多かったり、空港職員はマレー系の人ばかりだったり偏りを感じます。

ちょうど滞在中、マレーシアの独立記念日があり、ジョージタウンの街ではパレードが行われていました。パレードに盛り上がっている人たちもいましたが、普段どおりの生活をしている人のほうが多い印象で、淡々と、人混みを避けて街を案内してくれたガイドさん(中華系。盛り上がっているようには見えなかった)に連れられながら、「多民族の共生とは何か」、私たちにはおよそ簡単にははかり知ることのできないマレーシアの姿が少し見えたような気がしました。

取り残される人たち

ミャンマーで迫害されたロヒンギャの人たちが、同じイスラムであるマレーシアには多く避難してきています。しかし、マレーシア政府は難民として受け入れておらず、現地のNGOなどが支援をしているのが現状です。プログラムのなかで、NGOが運営しているロヒンギャ難民の子どもたちの学校を訪れました。

コロナの影響でこの2年ほど、まともに授業ができなかったそうで、マレー語でも英語でもコミュニケーションをとることが難しかった

ここでは初等教育のみで、成績のいい子たちはインドネシアやオーストラリアといった難民を受け入れている国へ行けるのだそうです。では、残った子どもたちは・・・。

「子どもたちは自分のことがよくわからないでいます。だから『自分はマレー人ではないの?なんでここにいれないの?マレー人になりたい!』って子どもたちは言うんです」と困ったように話すスタッフの表情がつらい現実を物語っていました。

環境問題、開発問題、ここでも民族問題

マレーシアで起きている社会問題について知るのもこのフィールドワークの目的の一つです。プログラムの最後に訪れたのは、ペナンの高級マンションが立ち並ぶ一角にある小さな漁村。開発を理由に漁師さんたちは、立ち退きを迫られているそうで、「海辺を離れて、マンションのほうに移れといわれているが、海から離れてしまったら海の様子がわからなくなってしまう」と長老。

浜のすぐ裏には立派なインターナショナルスクールが建設され、この秋にも開校するとのこと。水上スキーの授業も認められているそうで、そんなことをしたら魚が逃げてしまうといっていました

しかしなんと、すぐお隣にある中華系の漁師さんたちの村は、立ち退きどころか州政府に優遇されているというのです。ペナン州は、マレーシアのなかで唯一、中華系とマレー系の人口比率が逼迫する州で、州知事が中華系なのだそう。この小さな浜(両方合わせても、鎌倉の由比ガ浜ぐらいの広さ)にも、民族の問題が横たわる、マレーシアという国の複雑さを垣間見る思いでした。

世界を見る目、自分を変えるきっかけに

プログラムの目玉の一つに、「村でのホームステイ」があります。それまで困ったときには通訳してくれていた現地のコーディネーターやパルシックのスタッフがいなくなり、自分たちだけでマレー系の家族の家に滞在する2日間。英語もほとんど通じない環境は、大変だったけれども楽しく、よい経験になったようです。別れるときには、抱き合い、名残惜しそうにする姿が見られました。

村での結婚式のときに演奏する歌をホームステイ先の女性たちが披露してくれた。学生の二人が突然、新郎新婦役に指名され現地の衣装に

フィールドワークの最終日に参加学生が記入したアンケートには、「このフィールドワークを通して、物の考え方、見方が変わった」、「自分から動かなければ何も変わらないということに気が付けた」、「いろんな経験をして、もう怖いものがなくなった」、「これからの人生の糧になる」といった感想が見られました。

学生さんたちのこれからの人生に、何かを変える・始めるきっかけになったのであればとてもうれしいことです。そして、これからもマレーシアで協力してくれるたくさんの人たちとともに、このフィールドワークを日本の若い人たちに届けていきたいと思います。

フィールドワークスケジュール

日付 プログラム 宿泊地
8月28日(日) 羽田空港出発  
8月29日(月) ペナン空港着
宿泊場所へ移動
ジョージタウン
8月30日(火) インド系小学校訪問
英語授業
ジョージタウン
8月31日(水) ジョージタウンヘリテージツアー
英語授業
ジョージタウン
9月1日(木) ロヒンギャ難民学校訪問
マレーシア科学大学訪問
ジョージタウン
9月2日(金) バティック工場訪問
ペナン漁村へ移動、マングローブ植林体験
村でホームステイ
9月3日(土) ホームステイ先で交流
マレーシア科学大学の学生とグループワーク
村でホームステイ
9月4日(日) 漁村からジョージタウンへ移動
フリーマーケットなど自由行動
ジョージタウン
9月5日(月) 漁村訪問
英語授業
ジョージタウン
9月6日(火) ペナン空港発  
9月7日(水) 成田空港着  

(東京事務所 今村仙子)