石巻市北上町では2月になると“春祈祷”という新年の家内安全と悪疫退散、火伏を目的とした獅子舞の行事が行われます。集落により日付ややり方に違いはあ りますが、十三浜小室集落ではこの古くから伝わる行事をほぼ変わらず受け継がれてきました。そのため、他の集落から呼ばれて踊ったり教えたりすることも あったといいます。獅子頭も大きな耳、大きな頭が特徴的で、集落の方によると「ここの獅子はイケメンなんだよ」とのこと。小室にとって獅子舞は集落の誇り であり、春祈祷は毎年盛大に行われ続け、この日を楽しみに離散した家族も帰省するので、毎年春祈祷の日は人口が集落住民の2~3倍になったそうです。
小室の獅子の元の姿。 |
被災後、発見された獅子。現在高台にある集落の神社に保管されている。 |
十三浜小室集落は、東日本大震災の影響で津波により被災、住民は離散して暮らしています。現在、集落に近い高台に集団移転を予定していますが、移転まで集会場もなくこうした伝統的な行事も行うことができず、住民や親せき、家族が集う機会が失われています。
津波の翌日、集落の方が小室漁港に打ち上げられた獅子頭を見つけました。獅子舞の道具は、獅子舞(獅子頭・幕)やひょっとこのお面、衣装、太鼓、笛があり ますが、それらを保管していた集会所は海のすぐ側にあり、この大津波により全壊していました。がれきでいっぱいの漁港に苦労しながら降り、流れ着いた獅子 頭を確認したところ、それは紛れもない小室の獅子でした。見つけた方は、この大津波の中で奇跡的に帰ってきた2つの獅子頭を拾い上げ「これは必ず獅子舞を 復活させろということなんだろう思った」と話します。住民の皆さんが毎年楽しみにしていたという“春祈祷”。小室集落の契約会は「こういうときだからこ そ、住民の皆さんのために春祈祷を再開したい。他の地域に仮住まい・移転した住民が“地元に帰る”きっかけにもなれば、懐かしい顔も集まって賑やかになる だろう」と話してくれました。パルシックは、石巻市教育委員会の方に協力を仰ぎ、小室集落が獅子頭を取戻し春祈祷の行事が行えることを目指して応援してい くことを決めました。
小室集落のみならず、十三浜各集落各地で獅子舞の道具が流出してしまいました。また、獅子舞を皮切りに、地域の方から話を聞き、この地域が民俗芸能で集落 のコミュニティを繋ぎ、集落を賑やかにしていたことも知りました。獅子舞のみならず、十三浜の民俗芸能の復興に向け、年末より文化(コミュニティ)支援を スタートさせています。
小室の獅子の元の姿。 |
被災後、発見された獅子。現在高台にある集落の神社に保管されている。 |
不思議と、動かされると急に表情が変わります。 |
獅子舞のことを教えてくださるとき、みなさんとてもイキイキと話してくださります。 |
(パルシック 日方里砂)