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2月18日 緊急討論会「大統領選挙とこれからのスリランカ」開催報告

2015年2月18日に、「緊急討論会 大統領選挙とこれからのスリランカ」を開催しました。平日の開催にも関わらず、スリランカに思い入れのある様々な分野の方が集まってくださいました。

2015年1月8日に行われたスリランカの大統領選挙で、野党統一候補として出馬したマイティ・パリティー・シリセーナ(以下、シリセーナ)氏が新しく大統領になり、新政権が誕生しました。スリランカにとって、そしてスリランカに携わる人びとにとって、驚きの結果となった大統領選挙―スリランカに今後大きな変化をもたらすであろうこの選挙について、清水研氏、足羽與志子氏、中村尚司氏をスピーカーに迎えて、大統領選挙の背景、選挙へ向けての攻防、新政権の課題、そしてスリランカの今後について議論をしました。

スリランカ緊急討論集会 開催概要

【日時】 2015年2月18日(水) 19時~  連合会館にて
【プログラム】

代表理事 井上礼子より、開会のご挨拶

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司会進行は、パルシック代表理事の井上礼子

「パルシックは、2002年ラニル政権の停戦合意の際に“このスリランカの平和をなんとか維持したい”という想いで、スリランカでの支援事業の開始を決めました。2004年からジャフナで事務所をかまえてから、軍のプレゼンスがある難しい状況下で事業を進めてきました。今回の選挙は、ラージャパクサ氏が長期的に大統領として続投するための選挙だという様相があり、難しい結果になるだろうと思っていました。しかしその中で、南部の農村の多くの人たちまでもが「チェンジだ」と言っており、もしかしたら流れがかわるかな…と思うきっかけとなりました。そして、2015年1月8日にシリセーナ氏が勝利をおさめ、この驚きの結果に非常に興奮して、みなさんとともに議論をしたいと考え、この集会を緊急に企画しました。」

「スリランカ大統領選挙から見えたこと」 清水研氏

パルシックの理事のひとりであり、開発コンサルタントとしてスリランカ北東部での復興開発事業に携わっている清水研氏は、選挙について「まさかこんなことが起きるとは思っていませんでした」と言います。

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開発コンサルタント、パルシック理事の清水研氏

「シリセーナ氏が51.28%、ラージャパクサ氏が47.58%の投票を獲得した今回の選挙は、前回・前々回の選挙と比べてみても、81.52%とかなり高い投票率でした。一部を除いてメディアは、虚偽のニュースを流したり、新聞一面に野党候補の写真を一枚も載せなかったりなど、与党のコントロール下にありました。資金面でも明らかな差があり、そのような厳しい選挙戦であったにも関わらず、野党が勝利しました。ラージャパクサ陣営の敗因のひとつは、与党として国を大きく前進させる機会であったにも関わらず、権力の私物化や汚職・不正を行い、三権分立を軽視していたことが挙げられます。また、投票権をもつ人びとの3割りがソーシャルメディアネットワークを使用する世代であったことも、選挙結果に影響があったのではないでしょうか。」

「新政権の課題とスリランカ社会」 足羽與志子氏

「目に見えないような息苦しさが、一挙に解き放たれた開放感。2002年の停戦協定を思い出した」と一橋大学社会学研究科教授、「平和と和解の研究センター」共同代表の足羽與志子氏。

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一橋大学社会学研究科教授、「平和と和解の研究センター」共同代表の足羽與志子氏

「野党がうちだした“100日プログラム”という、物価の安定や生活基本物資の値下げ等の着実な実行によって、生活の安心、安全、安定度が上がり、生活の変化を実感した人びとが新政権を歓迎しています。しかし、野党の選挙勝利とはいっても、前大統領の支持者と現大統領の支持者はほぼ同数であること、そして、現政府が複数党の連立政府であることを忘れてはいけません。また、地域によって政権に期待する項目がちがっており、呉越同舟の政権のバランスを維持するのか、それとも崩すのか、重要な時期になってくると思います。南部では汚職問題の告発と浄化等、東部ではシンハラ化の抑制と三民族の共存等を期待しています。そして、北部では軍支配の排除、不正義の告発などを求めており、その中でも紛争中の虐殺や失踪の調査が、新政権にとって今後とても難しい問題となるだろうと予想されます。」

「スリランカ社会の今後」 中村尚司氏

元龍谷大学教授であり、パルシック理事の中村尚志氏は、スリランカを“ポジティブディスインテグレーションの社会”だといいます。

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龍谷大学教授、パルシック理事の中村尚志氏

「古代よりさかのぼってみても、スリランカでは集権的な体制をつくるものの、長期安定的に中央集権体制をつくることに成功したケースはほとんどありません。ポルトガルやオランダは、それぞれの根拠地であるジャフナやバティカロアなどの特定の地域だけを管理するような植民統治をしていました。スリランカ史上初めて中央集権的な体制を整えたのはイギリスです。“ディスインテグレーション”というと、分解や崩壊、壊れてばらばら・・・という様な意味に捉えがちですが、“ポジティブ・ディスインテグレーション”は、本来のスリランカ社会の伝統だと思います。その伝統に忠実に政権を担っていけば、新政権も維持できるのではないでしょうか。ラニル氏もシリセーナ氏も、あまり中央集権的なシステムを作ることにこだわっていないという共通点があります。中央集権的な体制を組織していたLTTEともラージャパクサ氏とも違った、新しいスリランカの新政権になるかもしれません。」

 

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質疑応答に答える登壇者の三名

会場を交えた質疑応答の時間には、登壇者の3名へ、スリランカの新政権の今後や選挙の攻防に関する鋭い質問が飛びました。平日夜の開催のため、2時間という限られた中での集会となり、十分に議論するには時間が足りなかったというご意見を多数いただきました。

パルシックは今後もスリランカの新政権や社会の変化などに関する情報を、現地から発信していきます。

(東京事務所インターン 監物もに加)