こんにちは。パルシック東京事務所インターンの久保です。
2020年9月5日(土)に行われました【オンライントーク 一問一答パレスチナ~その疑問直接尋ねてみませんか?~第1回ライフスタイル編】についてご報告させていただきます。
当イベントは、パレスチナのライフスタイル等について、まずパレスチナの基本情報と歴史を動画で学び、その後パルシックパレスチナ現地スタッフとリモートビデオをつないで参加者からの質問について答えるというものでした。
当日は沢山の方にご参加頂き、パルシック西岸事務所のプロジェクトコーディネーターでラマッラー出身ヤラ、同じくガザ事務所のプロジェクトマネージャーでガザ出身のサハル、現地駐在員の盛田、関口と共に開催されました。
東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区からなるパレスチナは、現在イスラエルの軍事占領下にあります。特にガザ地区は、軍事封鎖でヒトやモノの移動が完全に制限され、「天井のない監獄」と呼ばれています。現在もなお続くイスラエルとパレスチナの紛争下でパレスチナの人びとはどのように生活をしているのか、実際に行われた一問一答を振り返っていきましょう!
まず、イベントの事前に募った7つの質問と対するヤラ、サハルの答えを見ていきます。(以下、筆者訳)
Q1: 日本についてどう思う?
ヤラ「正直、日本に旅行しようと思ったことはないです。なぜなら日本とパレスチナは約9,000キロも離れており、日本へ旅行するにはとてもお金がかかるからです。でも、日本の団体で働いて、日本の人びととかかわる事で今までより日本をより身近に感じるようになりました。もし日本に行く機会があれば、富士山に登ったり大好きなお寿司を食べたりしたいです。」
Q2: 好きな食べ物はなに?
ヤラ「パレスチナの食べ物はとてもヘルシーです。チキン・オン・ザ・ボトルといって鶏肉(丸ごと一羽!)にレモン、ニンニク、水などが入った瓶を突き刺し、瓶から出るスチームで蒸し焼きにする料理がお気に入りです。パスタ料理や日本のお寿司も大好きです。」
Q3: 行ってみたい国はどこ?
ヤラ「旅行をする前にまず、パレスチナから海外に旅行するにはパスポートに加えてビザを取らなければなりません。その取得は簡単ではありません。行きたい国をあげるならば、ギリシャに行ってみたいです。建物のコントラストやビーチがとても美しく、マリンスポーツやアクティビティが豊富であるのと、アートを堪能したいからです。また、ハンガリーのブダペストにも行ってみたいです。お腹を撫でると願い事が叶うという警察官の銅像のある場所に行ってみたいと思います。」
サハル「旅行以前に、まずガザから出るのはとても難しいです。でももしも旅行に行く夢が叶うのならば、モロッコに行きたいです。ユニークな地理的な特徴があり、食事や海を楽しみたいからです。」
Q4: 将来の職業観、結婚観は?
ヤラ「私の地域では、大学卒業者4万人以上いるにもかかわらず、卒業後に労働市場に出て行くことができるのは1万人ほどです。そのため、大学に行かずにお金を稼ぐ人も多く存在します。現在パレスチナでは、とくに女性がアパレルやスキンケア類のオンラインビジネスを始める傾向が多いように思います。そして結婚にはとてもお金がかかります。皮肉なことに、男性の若者にとってはイスラエルで働くことは給料も環境も良いです。自立心の高い女性も増え始め、女性は独立しつつあります。結婚のため、自分たちの家族を守るため、子どもを育てるため、自由を手にするため、などの理由で働く女性は増えてきています。パレスチナでは職業観と結婚観の双方はとても密接に関わっています。」
Q5: 宗教色は強くない?ヒジャーブをつけるのは個人の自由?
ヤラ「この質問に関しては、イエスでもあり、ノーでもあり得ます。イスラム教のコーランには、女性は顔と手以外はすべて隠すためのヒジャーブをつけなければならないとあります。女性がヒジャーブをつけなければならないのは月経を迎えた後の大人になってからであって、その意味は自分たちをハラスメントから守るためでもあります。しかし、近年のパレスチナではスタイリッシュでおしゃれな着方もあります。人や家族によってヒジャーブの着用有無はそれぞれです。私の場合は社会的なプレッシャーによってつけることになりました。他人から私の父親に『なぜあなたの娘はヒジャーブをつけていないのか。あなたの娘になにかあったら親の責任だ。』と言われ、父が着用を勧めたことによってヒジャーブを付ける経緯に至りました。彼が父にこう言ったのも、パレスチナでは”ヒジャーブをつけることで女性の安全が守られる”と考える人が多いからです。私の場合は、最初は自分とヒジャーブのつながりがないためつける意味を疑っていたが、段々とヒジャーブ着用を楽しめるようになりました。」
サハル「ここではイスラム教の観点から、学校でヒジャーブのつける意味を教えています。ガザ地区は男性優位の考え方が浸透しており、ヒジャーブをつけるかつけないか、家族(特に夫などの男性の意見)の決定や判断が大きく影響する場合が多いです。ガザ地区はとても保守的な地域のため、ヒジャーブをつける女性はとても多いように感じます。」
Q6: 大人になってから改宗する人はいるの?異教徒同士は親しくなりづらい?
ヤラ「イスラム教徒では改宗することはタブーとされています。家族の中で改宗した人がいた際には、場合によってはその人を勘当してしまうこともあります。私の場合、異宗教だからということが友情に影響することはありません。キリスト教徒や無宗教の友達もたくさんいます。異宗教徒同士であっても、友達であり、相手を尊重できる限り、だれかと人間関係を築く上で宗教は壁にはなりません。しかし、結婚については例外です。イスラム教で、女性が異宗教の男性と結婚することは認められません。異宗教教徒同士が結婚する場合はどちらかが改宗しなければならなくなってしまうからです。」
Q7:検問所の様子や現状は?
ヤラ「パレスチナには140ヶ所もの検問所(チェックポイント)があります。ヨルダン川西岸地区での移動は、検問所を通過しない限りはどこにもいくことが出来ません。常設の検問所から臨時に設置される場合もあり、イスラエルがいつでもどこでも地区を閉鎖できる状況にあります。検問所にも様々な種類があり、ザータラ検問所、カランディア検問所などの常設検問所、ゲート型検問所、部分的検問所、臨時検問所などです。検問所の唯一いいところをあえてあげるなら、検問所迂回の際に知らない道を通る必要があるため新しいエリアを知ることができる、ということぐらいですね。検問所では通過する人々全員を検問する場合もあれば、ランダムに人を選んで止めることも多く、検問所の通過可否はその場の運であることが多いです。検問所に行くには不審な行動をとらないなどの細心の注意を払わなければなりません。カランディア検問所では、イスラエルIDを持参しているか、許可書を持参しているかの条件が無ければここを通過できません。後者の場合イスラエルに行く正当で然るべき理由がある場合のみ通過が認められます。検問所の通過は時に命懸けとなります。一つの事件を紹介します。通過しようとしたあるパレスチナ人女性は検問所の兵士がヘブライ語で話すため言葉も通じず、検問所について何も分からない、何をすればいいのか分からない状況でした。そして(不審な動きをしていると判断され)その場で兵士に射殺されてしまいました。このようなことが検問所では日常的に起っています。また、兵士のハラスメントも問題になっています。」
次に、実際のイベントで参加者からあがった質問をみていきます。
EQ: どのようにして日本のNGOを知り、なぜパルシックで活動するようになったの?
ヤラ「2015年2月、就職活動をしていました。そこでパルシックが現地スタッフを募集していることを知りました。パルシック事務所で働く共通の知人もいて、パルシックで働く運びになりました。はじめは勤勉で仕事に熱心な日本人のスタッフと働くことがとても不安でしたが、現在まで5年近くこの仕事を続けることができています。」
サハル「2014年のガザ戦争の際に、そこで何が起こっているのか、コンタクトをとってきた日本在住のパレスチナ男性がいました。彼を通じてパルシックと出会い、そこからパルシックの活動に加わるようになりました。2014年10月のことです。」
EQ: パレスチナでは、大人の方が大学に入って学ぶことは多いの?
サハル「パレスチナには二つの種類(形態)の大学があります。一つは高校卒業後の学生のみしか入学できない大学で、もう1つは年齢問わず誰でも入学できるオープンユニバーシティ(通信)です。オープンユニバーシティはパレスチナで55大学あります。私は後者の大学に子どもの出産後に入りました。リモートかつオンラインで学ぶことができたので、家庭で家事育児をしながら大学の授業を受けることができました。」
【一問一答パレスチナ~ライフスタイル編】はパレスチナの人びとのライフスタイルについて、現地の声を聞くことができる非常に貴重な機会だったと思います。このイベントを通して、現地での暮らしやパレスチナで生きる人々の話を聞くことができました。
私が特に衝撃的だったのは検問所についてです。「言葉が通じず不審だから」という理由だけで、簡単に人を殺してしまうということでは許されることではありません。紹介されていた検問所での兵士のハラスメントもとても残酷でした。兵士は銃を持ち武力装備しており、一般の人は非武装で決して逆らえない状況にあるのにも関わらず、立場や権力を行使して人権を犯すような行為に及ぶのは人道的に違反していると強く感じます。
そこで、ここではとくにQ5とQ7の質問に焦点を当てて、関連して私が感じたことをまとめてみたいと思います。
このイベントを通して私が感じたことは「知ること」の大切さです。今回、私はパレスチナの現状や宗教におけるヒジャーブ着用、検問所の実際の様子について知らないことだらけでした。私の身近な場所で、誰かの価値観が傷ついていたり、反対に「知らない」ということだけで私自身が知らず知らずのうちに発言や行動でだれかを否定してしまっていたりしていました。また、私の知らない場所で、不当な理由で多くの人間の命を失われています。
そこで、まず私たちに共通してできることは「知ること」なのではないでしょうか。
例えば宗教については、自分とは異なる宗教というだけで、理解しがたい信仰というだけでだれかを判断したり、偏見の目で見てはいけないということです。「無知は罪なり」という言葉がありますが、無知が誤解につながりそして誤った先入観や争いを生んでしまいます。
人と人が交流するとき、まずスタートとして相手を知ることから始めると思います。それと同様に、他の国についてやそこで起こっていること、為されていること、などに目を向けることが大切です。知ることで初めて、その後の行動やある状況を良くして行けたり、変えていけたりすると思います。
そのためにもまず、世界で何が起っているのか、どのような人が存在しているのか、同じ人間がどのような状況にあるのか、私たちはもっと知らなければなりません。
今回このようなイベントを通して少しでも多くの人がパレスチナについて、そして世界で起こる様々なことについて関心をもっていただけたら、知るきっかけ作りになればと思います。
(東京事務所インターン 久保裕花)