上水道整備がほぼ終わりに近づいた11月、サココ集落を訪ねました。コハル事務局長のベントさんの指揮のもと、住民が1.5キロメートル離れた水源から集落への配管作業をしていました。配管といっても道路の下に水道管を埋めるというわけではありません。専門家が引いた図面をもとに、山中を分け入ってポリパイプを埋めていきます。雨季の山中はヒルがいっぱい。でも、重たいポリパイプを運び、木の根や石に邪魔されながら穴を掘っていく作業をしながらヒルのことなど構っていられません。体中血を吸われて痒くてたまらない、とベントさん。
本来は、上水道整備は10月に終える計画でした。サココ集落のあるポニララ村は2021年からILO(国際労働機関)が実施するRoad for Development(R4D)事業の対象となり、村道にコンクリートを打設する作業が始まっていましたが、2022年にはいよいよ村の一番奥にあるサココ集落まで到達し、住民が交代で作業に出るようになりました。住民は道路づくりと上水道整備との両方に交代で参加することになり、また資材の運び込みにも道路作業とのスケジュール調整が必要となり、作業が遅れこみました。
アグロフォレストリー事業を開始した2019年、サココ集落は道路、水道、電気といったインフラの整備が遅れていて、特にコーヒーや農作物の市場へのアクセスに欠かせない道路整備は住民の悲願でした。あれから3年。道路と水は整備された、あとは電気だ、と忙しさも苦にせずみなさん嬉しそうです。ここまでの変化を村全体にもたらした村長でありコハル組合長でもあるアマロさんの尽力には、頭が下がります。
苗床と、すでに定植した植物の生育具合も確認してきました。 苗床は、管理人アルバロさんのセンスで訪ねる度に色とりどりの植物園になっていきます。ねむの木、モクマオウ、ラムトロ、カカオ、ライム、ランブータン、ドゥリアンの苗が12月の定植に向けて準備されていました。
また、案内してくれたベントさんの畑は、テラスを整備した区画内にねむの木、ロブスタコーヒー、カカオ、ドゥリアン、ライム、バニラ、こんにゃくと、高木から背の低い植物まで10種類以上が育つ、まさにアグロフォレストリーのお手本のような場所になっていました。
サココのプランテーション跡地を豊かな森にしたい、というベントさんの夢を一緒にかなえようとこの事業を始めてようやく3年。夢が形になりつつあります。同時に、事業終了後コハルとして活動を継続していくための準備を、これから徐々に進めていきたいと思います。
(東ティモール事務所 伊藤 淳子)
※この事業は日本国際協力財団からの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。
]]>2020年12月に一回目の苗の配布をおこない、99世帯が2,424本の苗をそれぞれの畑に植えました。しかし、集落の人びとの畑はほとんどが傾斜地で手入れがしにくいばかりか、植物にとって必要な養分を地中に蓄えておくのにも適していません。
コハル事務局長のベントさんは、人びとの畑をテラス状にしたい、けれどもテラスづくりは大変な作業で、声をかけあって食事も出し合って共同でやらなければならないので、まずは25世帯から、ということで、2021年度は25世帯の畑にテラスをつくるための共同作業を開始しました。
10月に入って雨が降り始め、地盤が緩んで作業もしやすくなった頃合いの11月はじめ、8人ずつで4つのグループを作りテラスづくりが始まりました。
高い所から低いところへ、およそ1.5~2メートルの間隔で杭を打ち、杭と杭の間を鍬で平らにならしていくと、雑然としていた畑がスッキリとした段々畑になっていきます。
21圃場まで作業を終えた昨年12月13日。上の写真にあるイラリオさんの畑に集まって、苗の定植開始のセレモニーが開かれました。見違えるほどきれいになった畑に、2~3メートル間隔で苗を植えていきます。アイナロ県マウベシ郡でのコーヒー畑改善事業で、目下コーヒー苗の定植に忙しいチームリーダーのネルソンが、サココ集落のみなさんに穴の大きさや深さ、土と有機堆肥の配合など、定植時の注意点を説明します。
説明を受けたあとはみんなで賑やかに定植です。
邪魔だ、どいてなさい!と怒られながら、子どもたちも見守ります。
サココの旧プランテーション跡地が豊かな森に変わるのは、この子どもたちが大人になる頃でしょうか。まずは25世帯から、と慎重だったベントさんは、テラスづくりをもっと広げたい様子です。わたしたちが支援できる期間も限られてきました。また、植えた苗が実を結び、人びとの生活の糧になるまでには長い年月がかかります。つくづく気の長い取り組みを始めたものだと思いますが、コロナ禍でなかなか会うことができなくても訪れるたびに目の当たりにするサココ集落の変化に、胸が温かくなります。
(東ティモール事務所 伊藤 淳子)
※この事業は日本国際協力財団からの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。
]]>コハル事務局長のベントさんは、コーヒーをフェアトレード市場に出荷することで得られるソーシャルプレミアム資金から奨学金を得て、2年間、地域の農民学校でアグロフォレストリーの理念と実践を学びました。2015年、集落の高台に立って眼下に広がるコーヒー畑を見渡しながら、ポルトガル植民地時代はこのあたり一面がロブスタコーヒーのプランテーションだったこと、インドネシア軍事占領下で森に隠れるゲリラ兵のあぶり出しのためにその多くが燃やされたこと、そして独立した今、自分たちはたくさんの木を植えてここに森をよみがえらせたいんだ、と夢を語ってくれたことがありました。アグロフォレストリー事業が形になったのはベントさんのこの話がきっかけでした。
苗床の建設予定地としてベントさんたちが選んだ場所は、20立方メートルタンクを設置した場所から200メートルほど離れたアルバロさんのお宅の前庭です。乾季には子どもたちが(大人も?)サッカー遊びをしていますが、雨が降ると大きな水たまりになってしまうということで、苗床をつくるにはどの位置が良いか、慎重に検討しました。
苗床施設の建設には、水道修復を担当した技術者のルベンが引き続き設計や見積もりを出してくれました。上水道敷設工事に比べるとずっと簡単な作業です。新型コロナウィルス感染症拡大の影響で非常事態宣言が続く中、ベントさん、アルバロさんが中心となって苗床建設作業を7月からひと月半ほどで終えました。7月末にはコーヒーが赤く色づき、コーヒーの収穫、加工、計量と忙しい日々が続きました。
そんな中、水道と苗床の完成式典を開きたいとベントさんから招待を受けました。8月28日、早朝に首都ディリを出発してサココに到着すると、地域の長老や女性、子どもたちが盛装して出迎えてくれました。いつもは資材置き場になっている建設中のお宅はステージに変わり、中央に置かれたテーブルの上には特製ケーキが鎮座しています。エルメラ県水道局の局長さんやコミュニティラジオ局のジャーナリストたちも来てくれて、見慣れたサココの風景がこの日はまったく違って見えました。
12カ所設置した水場の一カ所、そして苗床施設のドアに風船とリボンでデコレーションが施され、水道局長さんとパルシックとでテープカットをしました。苗床にはバニラ、ライム、ねむの木の苗が育っています。この晴れの日を迎えるために、コーヒーの計量や支払いをしながら奔走したベントさんは、わたしとルベンに一羽ずつ雄鶏のお土産まで用意してくれていました。このテープカットはベントさんの夢の幕開けです。サココの旧プランテーション跡地が豊かな森になる日まで、一緒に夢を見続けたいと思います。
(東ティモール事務所 伊藤 淳子)
※この事業は日本国際協力財団からの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。
]]>ポニララ村にとって道路、電気、水という生活に必要なインフラの整備は積年の願いであり、同時に、地理的になかなか公共事業の順番が回ってこないという懸念事項でもあります。パルシックは2009年から、サココ集落の青年組合コハル(KOHAR)とロブスタコーヒーのフェアトレードを実施していますが、雨季にぬかるんだ坂道を四駆車だから大丈夫と過信して下ってしまい、帰りに登れなくなって集落内の青年たちがずぶぬれになってロープで引っ張ってくれたり、集落に泊まった夜、太陽光発電の薄暗い豆電球の下で甘いロブスタコーヒーを飲みながら昔話に興じたり、不自由な中で人びとが文字通り肩を寄せ合い営んできた暮らしの一片を垣間見てきました。
2019年4月からコハルと開始したアグロフォレストリー事業では、苗床の管理運営に欠かせない水の整備が最初の取り組みとなっています。サココ集落には現地NGOが整備した立派な貯水タンクがいくつかありますが、どれも乾季には水が枯れます。原因は水源の取水口が適切に作られていなかったり、水量や距離に対してパイプの管径が適切でなかったり、主には設計の問題でした。コハルはフェアトレードのソーシャルプレミアム(コーヒー豆の買い手から組合へ買取価格の一部が戻ってくる仕組み。使途は組合によって民主的に決定され、組合や地域の開発のために使われる)を使ったり、集落内の有志がお金を出し合ったりしてこの水道設備の補修をおこなってきましたが、自分たちの知恵だけでは限界がありました。
パルシックは2015年から3年間、マウベシという別の地域で実施した「山間部農村の水利改善事業」の経験を活かし、このアグロフォレストリー事業では東ティモール人技術者を水道専門家として招きました。水源と既存の水道設備を調べ、水源は豊富にあること、水源と集落との距離や高低差にも問題がないことを確認しました。そして改修のためにはすでにある貯水タンクやパイプのほとんどを変えなければならない、という専門家の結論を聞いて、コハルの特に中心的な役割を果たしてきた人たちは大きく落胆しました。自分たちの力で現状を変えようと努力してきたことの証が否定されたばかりか、具体的に、自分たちでお金を出し合って買ったセメントやパイプを撤去しなければならない、ということに、強く動揺しました。
わたしたちも、これまでコハルのリーダーシップや自主性に任せきりにしていたことに責任を感じます。コハルがフェアトレードのソーシャルプレミアムで水道設備の補修を決めたとき、専門家を探して一度見てもらってはどうかと提案することもできたのではないか。有志がお金を出し合って少し遠い集落まで水を引くというアイデアを聞いた時、そのお金が無駄にならないよう一緒に考えることもできたのではないか。自主性を尊重することと任せきりにすることとの微妙な違いを、うまく使いこなせていなかったと反省しました。
こうした過程を経て始まった水道設備の改修工事は、やはり、コハルの自主性に助けられ、集落の多くの住民の参加を得て着々と進みました。苗床建設予定地の近くに20立方メートルの貯水タンクが立ち、さらに6立方メートルの貯水タンクに配水し、12の公共水場を設置して周辺の住民65世帯が年間を通じて生活水にアクセスできるようになりました。20立方メートルの貯水タンクの型枠に一気にセメントを流し込む日、30人以上の男手と10人近い女性たちが集まり、朝から夜8時までかけて作業を終わらせた光景には気持ちのよさすら覚えました。
何よりも、毎日水汲みを含む家事を担っている女性たちが、訪問するたびに笑顔でバナナの素揚げやふかしたキャッサバを用意して待っていてくれる様子から、彼女たちが喜んでくれていることが伝わってきてこちらもうれしくなりました。
安定した水の供給が可能になり、2020年度は苗床の建設が始まります。
(東ティモール事務所 伊藤 淳子)
※この事業は日本国際協力財団からの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。
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