シリア難民への教育支援事業 – 特定非営利活動法人パルシック(PARCIC) https://www.parcic.org 東ティモール、スリランカ、マレーシア、パレスチナ、トルコ・レバノン(シリア難民支援)でフェアトレードを含めた「民際協力」活動を展開するNGO。プロジェクト紹介、フェアトレード商品販売など。 Thu, 15 Dec 2022 06:23:06 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.1 新学期の始まりと学校への越冬支援 https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/21657/ Wed, 14 Dec 2022 05:54:21 +0000 https://www.parcic.org/?p=21657 パルシックが支援する学校の新学期の様子をお届けします!

この学校に暖房用の灯油を届ける
越冬支援キャンペーンはまだまだ継続中です!⇒寄付キャンペーンのページへ

パルシックが支援する学校の新学期

12月。レバノン北部のアルサール市にも、本格的な冬が近付いてきました。
レバノンは現在雨期のため、冷たい雨が続きます。12月後半にはマイナス3度まで下がる日も出てくる見込みです。この時期は毎年雪が降り積もり、市内の難民キャンプで暮らす人びとの生活をより過酷なものへと変えていきます。

そのような状況下でも、アルヌール学校では、パルシックが昨年に引き続きシリア難民生徒の教育支援を行うことが決まり、先生たちが新学期に生徒を迎えるべく、忙しい日々を送っていました。今学期も生徒が楽しく学んでもらえるよう、2週間かけて先生同士で何度も話し合い、手分けして授業の準備を進めていました。

教科書を準備しています

教室を飾る先生たち

先生たちの力作!

先生と生徒が待ちわびていた新学期の初日。
「ようこそアルヌール校へ」と書かれた手作りのアーチを抜け、子どもたちが元気に登校してきました。久しぶりに先生や友人に会えて笑顔になる子や、中には初めてアルヌール校に来て緊張する子の姿も見られましたが、教室全体が、明るい希望に満ちています。

初日は、アイスブレイクとして工作をしたり、フェイスペイントをしたり、様々な質問が書かれたボールを回して答え合うなどのワークショップを実施しました。

初日の様子

ワークショップを楽しんでいます

ある生徒は、「久しぶりに学校に来られてとてもうれしい。勉強を続けて、将来は先生になりたい」とうれしそうに語ってくれました。アルヌール学校の子どもたちはこれから、アラビア語や算数、理科、英語などの科目をはじめ、様々な活動を通して学びを深めていく予定です。

アラビア語で質問が書かれています

新学期の写真撮影会

アルヌール学校に暖房用の灯油を届ける越冬支援

日々寒さが厳しさを増すアルサール市。コンクリートが打ちっぱなしで断熱材もなく暖房のない教室は底冷えするため、子どもたちは各自の防寒具で何とか寒さを凌いでいます。

アルヌール学校では、現在3つのシフトを設け、レバノン人とシリア難民の子どもたちが通っています。今回ご紹介したパルシックが支援する子どもたちは、3つのシフトのうちの一つに通っており、この事業の予算で暖房用の灯油を配布する予定です。しかし、他の二つのシフトに通うレバノン人とシリア難民の子どもたちの教室には、この冬、灯油の入手の目途がたっていません。

子どもたちが冬でも暖かく過ごし、安心して授業を受けられるような環境をなんとか整えたい。 アルヌール校の子どもたちに暖房用の灯油を届けるための越冬寄付キャンペーンは、まだまだ継続中です。目標金額の150万円突破を目指し、今後もアルヌール学校やレバノンの様子の発信を続けていきます。

皆さまからの温かいご支援を、ぜひよろしくお願いいたします。

ご寄付はこちらから

新学期の様子や、越冬支援に向けた先生たちからのメッセージ

パルシックTwitterアカウントでもレバノンの様子をつぶやいています。

すでにご寄付をいただいた皆さまには、心より感謝申し上げます。

(レバノン事務所 佐藤)
※この事業はジャパン・プラットフォームからの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。

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レバノンの学校におけるシリア難民・レバノン人のCOVID-19感染拡大防止支援事業 https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/21154/ Wed, 07 Sep 2022 09:24:18 +0000 https://www.parcic.org/?p=21154 ご無沙汰しております、レバノン事務所の風間です。

レバノンは、2019年秋から始まった厳しい経済・社会状況が好転する兆しがなく、状況は悪化の一途をたどっています。レバノンポンドの価値は、公式固定レートの1米ドル=1,500レバノンポンドに対し、非公式実勢レート[1]が、1ドル=35,000ポンド以上を記録し、2022年9月2日現在は、その最安値を更新する勢いです。国営電力会社からの電気供給は、相変わらず1日0時間から2時間程度のままであり、発電機を別途契約しなければほとんど電気が使えません。2021年から2022年にかけての冬は記録的な降雪・降雨を記録し、例年になく3月末まで降雪が続きました。こういった状況の中、レバノンで暮らすシリア難民の9割が「生存するのに最低限必要な金額(Survival Minimum Expenditure Basket)」以下で生活しています。特に昨冬、難民キャンプのテントで暮らすシリアの人々は暖房用の灯油を購入することができず、空腹と寒さに苦しみました。レバノン人も、2021年3月時点で既に78%が貧困ライン以下で生活し、極度の貧困ライン以下は36%に達し、その後も支援が必要な人が増加し続けています。2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻は、小麦や植物油の輸入の大半を依存するウクライナや黒海沿岸諸国からの輸入を困難にさせ、主食であり比較的安価に手に入るパンの原料である小麦の確保と価格の安定が、大きな課題となっています。

さて、今回の記事は、アルサールの学校でコロナ対策をやっていますで紹介した、レバノンのバールベック・ヘルメル県アルサール市の私立・準私立学校9校に対して行った新型コロナウイルス対応事業の後編です。

この事業は、レバノンの経済的に脆弱で、新型コロナウイルス対応能力が低いバールベック・ヘルメル県アルサール市の私立・準私立学校9校やその地域での感染症拡大リスクを低減させ、レバノン人やシリア人といった国籍に関係なく、学校に通う全ての子どもたちへ、より質の高い対面での教育の機会の確保に寄与することを目的に、2021年4月から2022年3月まで実施しました。

前回の記事でお伝えした通り、アルサール市の私立・準私立学校9校に通う経済的に脆弱なシリア難民やレバノン人の生徒・学校の教職員たちに対し、(1)教職員・生徒への啓発授業、(2)学校への衛生用品の配布、(3)教職員・生徒へのマスクの配布、(4)スクールナースの設置と巡回、という活動を主に行いました。

シリア人女性に作ってもらった布マスクをつけて授業を受ける生徒ら

最終的に、シリア難民やレバノン人の生徒・教職員たち計7千人以上に新型コロナウイルスに関する啓発授業を実施。事業期間中に渡り、8千人前後に対して不織布マスクやハンドジェル、石鹸、学校清掃用の漂白剤等を供給し続け、避難生活を強いられているシリア人女性らにトレーニングを行い、対価を支払って作っていただいたマスク約3万枚を生徒・教職員たちへ配布しました。また、予算不足でいわゆる「保健室の先生」がいないため、事業で設置した学校医と看護師が、9校に月2回ずつ訪問して生徒及び教職員が体調不良等を相談し、適切な診察と指示が受けられるようにした結果、延べ393人の診察を行うことが出来ました。

学校訪問中の医師から診察を受ける学校の先生

さらに、当初は事業計画時には予定していませんでしたが、当該9校に対し冬の3か月間、教室を温めるための暖房用灯油や、毛糸の帽子・マフラーの配布(一部は越冬支援キャンペーンでいただいた寄付金で賄うことができました)も行いました。毎年、越冬支援をお願いしていることからご存じの方も多いと思いますが、アルサール市は非常に厳しい冬の嵐に見舞われます。しかし一方で、深まる続ける経済危機により、特にこの2021年から2022年の冬のシーズンには学校も暖房用灯油を購入することが難しいことがわかりました。これでは新型コロナウイルスのクラスターが発生しなくても、コンクリート造りで底冷えのする校舎で、暖房なしに授業を継続する行うことは難しく、学校を閉鎖せざるを得ません。暖房なしで授業を強行した場合も、十分な性能のある防寒着を買うこともままならない家庭も多い中、体が冷え、免疫が低下し、体調を崩す生徒・教職員が出てくることも予想されました。こうした背景の元、子どもたちが必要としているニーズを把握し、当事業で暖房用灯油や防寒具を支援したことにより、生徒らの体温低下を防ぎながら授業を行うことができました。

配布した灯油で暖を取りながら授業を受ける生徒ら。
寒い日には気温は氷点下となり、学校はコンクリート造りのため、暖房が無ければ教室の気温が5℃前後にまで下がることも。

これは学校の運営としても非常に大きな支援となったようです。ある校長先生に話を聞くと「灯油の支援が無ければ、灯油を買うために授業料を追加徴収するしかありませんでした。しかし、そうなればシリア難民やレバノン人に関係なく、経済的に厳しい家庭においては子どもを退学させなければならない世帯も多くいたでしょう」とのことでした。レバノンでは学校教育は、新型コロナウイルスの影響だけでなく、経済的要因も大きくかかわっていること、しかもシリア難民だけでなく、受け入れている側のレバノン人にとっても厳しい状況であることを再認識させられる証言でした。

雪が降る中、衛生用品をが学校に配布した日。

こうした活動により、結果的に、2021年4月から2022年3月の間で、新型コロナウイルス感染拡大リスクを低減する事に成功し、支援対象の全9校で感染拡大による学校閉鎖を防げました。さらには、様々な課題を抱えるオンライン授業を回避し、生徒らにより質の高い対面授業での教育の機会を確保することができました。これは、2020年3月のロックダウン以降、オンライン授業に移行し、電気やインターネットへのアクセスが難しい中で、生徒たちに何とか教育を提供しようと奮闘してきた学校の先生らや、勉強机の無いテントで小さなスマートフォンを見ながら授業を受けていた生徒の存在を知っている私個人としても、非常に嬉しいことでした。

防寒具を受け取る子どもら

現代において教育は、個人の将来的な自己決定権や幸福にとって非常に重要であり、また共同体の発展にとっても不可欠であると、私は考えます。しかし、レバノンに住む初等教育の年齢にあるシリア難民の半数もの子どもたちが教育を受けておらず[2]、レバノン人らも(レバノンに住むパレスチナ難民や移民を含む)約20%の世帯で、経済的脆弱さにより子どもが学校教育からドロップアウトしている[3]ことが報告されています。

2022年8月末現在、新型コロナウイルスの感染者数は、比較的低い値で推移していますが、今後いつ、より有害な変異体が現れるか分からず、予断は許さない状況です。冒頭に述べた通り、経済状況も改善の兆しが見えません。パルシックは、引き続きレバノンにおいて必要なニーズに対し、適切な活動を行っていきます。今後とも応援いただけますと幸いです。

[1] レバノンポンドの固定の公式レート(1米ドル=1,500レバノンポンド)に対し、2019年後半から経済危機が進み始め、レバノン経済への信頼がなくなったことから、実際の市場ではそれほどの価値はないとの判断が進み、2022年9月現在、35,000ポンドを払わなければ1ドルを買えなくなっている。
[2] UNHCR, ユニセフ, WFP “VASYR 2021 – Vulnerability Assessment of Syrian Refugees in Lebanon” p67
[3] OCHA “REVISED EMERGENCY RESPONSE PLAN LEBANON” p26, 2022年6月16日

(レバノン事務所 風間)

※この事業はジャパン・プラットフォームからの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。

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アルサールの学校でコロナ対策をやっています https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/19773/ Thu, 14 Oct 2021 10:12:33 +0000 https://www.parcic.org/?p=19773 こんにちは。皆さまお元気でしょうか。

2021年6月末以降、レバノンの状況悪化はすさまじいものでした。レバノンポンドの価値が暴落し続け、公定レート1ドル=1,500ポンドに対し、実勢レートが一時1ドル=23,000ポンドにまで到達しました。物価はさらに上昇。通貨価値の暴落により燃料が輸入できず、国営レバノン電力からの電気は1日2-3時間のみ。

日や地域によっては全く電力の供給がない日もあり、ろうそくや懐中電灯で明かりをとり、洗濯も文字通り手洗い、電気の無い冷蔵庫が意味をなさなくなり中のものを捨てる、食中毒が多発する。またガソリンの不足により、ガソリンスタンドに数時間、時に数日かけて並んで給油をするなども日常茶飯事です。

2019年秋以降の経済危機及び新型コロナウィルス危機もあり、生きるのに最低限必要な支出(SMEB)以下で暮らすシリア難民が、55%から89%にまで急上昇しています[1] 。レバノン人も、2021年3月には78%が貧困状態に陥っています[2]

ナジーブミカーティー首相[3] が9月に誕生しましたが、今のところこれといって大きく状況が改善したということもありません。

さて、そうした状況の中で、パルシックは、レバノン北東部に位置するバールベック・ヘルメル県アルサール市の9つの学校において、新型コロナウィルス対策事業を2021年4月より開始しました。

レバノンでは2020年2月末に初の新型コロナウィルス感染者が確認され、その直後から学校での対面授業が禁止され、オンライン授業や課題を配布して遠隔で教育を行っていました。

しかし、オンライン授業に欠かせないデジタル端末やインターネット、安定した電気へのアクセスが無い貧しい家庭の子どもたちに対しても質の高い教育機会を保証できるよう、2020年9月以降の授業においては、対面授業とオンライン授業を組み合わせて行うことが教育省により決定されました。

対面授業を行うには、学校での感染症対策が必須となります。しかし、公立学校には教育省やUNICEFの衛生用品の支援が入るものの、私立・準私立学校は除外され 、経済危機により収入が減っている学校は十分な感染対策を講じることが出来ない状況にありました。

アルサール市の私立・準私立学校9校には、レバノン人シリア人合わせて約8,000人が通っており、十分な感染対策が取られない環境下で対面授業を受けた場合、クラスターが発生し、対面授業が再度停止されてしまうことが懸念されています。

そこで、パルシックは、(1)教職員・生徒への啓発授業、(2)学校への衛生用品の配布、(3)教職員・生徒へのマスクの配布、(4)スクールナースの設置と巡回、の4つの活動を通して、アルサール市の全ての私立・準私立校9校に対し、新型コロナウィルス対策を2021年4月より行っています。

レバノンでは、今年1月に1日6,000人を超える新規感染者が出るなど、新規感染者数がピークに達しました。非常に厳しいロックダウンがかかる中、学校も例外ではなく、1月から4月まで閉鎖されました。子どもたちは学校で友達と一緒に勉強したり、遊んだりできず、またオンライン授業についていけない生徒も少なからず存在する状況が続いていました。4月に感染者数が減少傾向となったことから、4月末から5月にかけて徐々に対面授業を開始し始めました。

学校が再開され、嬉しそうに友達と遊ぶ生徒たち

こうした中、まず(1)教職員・生徒へ啓発授業を行い、新型コロナウィルスについての知識やどうすれば感染を予防できるのかを学びます。新型コロナウィルスの発生から1年以上が経っており、既に知っているという人もいましたが、知識としてはあるものの、実践されていないことも多いことがわかりました。そこで、マスクを自分でつけてみる、石鹸で手を洗う動作を一緒にやってみる、というように、実際に自分で手を動かして実践してもらう時間を設けることで、より日常生活で実践してもらえるような工夫をしました。

啓発授業を受ける生徒たち

また、(2)学校への衛生用品の配布では、ハンドジェル、石鹸、ブリーチを配布しています。これにより、教職員や生徒が学校に来た際に手を清潔に保ち、学校の校舎や備品の消毒もできるようになります。

さらに、(3)教職員・生徒へのマスクの配布も行っています。このマスクは、材料やミシンをシリア難民女性に提供し、製造を委託して作ってもらっています。生産にかかった手間賃を女性たちは得られ、同時に出来上がったマスクも生徒たちに配布できます。

マスク作りのリーダーになった女性に話を伺ったところ、「シリアでは裁縫の免状とミシンを持ち、裁縫の仕事をしていたが、シリア危機でレバノンに来て以来全てを失ってしまいました。今は自分には継続的な仕事はありません。夫はシリアでは看護師でしたが、レバノンでは働く資格がなく、収入がほぼないため、UNHCRから現金支援を受け取って家族7人で生活しています」とのこと。

また、別の女性は、「夫とは離婚し、7人の子どもと生活しています。これまでは農場で子どもと働き1人1日20,000レバノンポンド(当時の通貨価値で約110円)を稼いで生活していました。マスク製造でお金が稼げれば、子どもに何か買ってあげたい」と言っていました。

女性たちは裁縫技術をお互いに教え学び合い、自分たちが作ったマスクが、子どもたちが教育を受けるうえで役立つことを想像しながらマスクを作っていました。

マスクを作るシリア人女性たち。 幼い子どもがいる場合でもマスク製造に参加できるよう、子どもをそばで遊ばせておけるような場所や人員を確保するといった配慮を行いました。

次に、(4)スクールナースの設置と巡回ですが、まずこの活動の背景として、アルサール市の私立学校にはいわゆる保健室の先生を設置する余裕がなく、気軽に体調や新型コロナウィルスについて相談する人がいない状況があります。

そこでこの活動では、月2回、医師と看護師が各学校を訪問し、教職員や生徒の体調や新型コロナウィルスに関する相談を受けられるようにしています。

5月以降は新規感染者数も比較的低く、アルサール市内での感染者数も1か月で数人程度が確認されるだけと、感染が収束しているかのように見えます。しかし医師・看護師が学校を訪問すると、少なからず教職員や生徒が体調不良を訴えてきています。

感染が疑われる場合はまずはPCRテストを受けることが推奨されますが、PCRテストを受けるには10,000 – 150,000レバノンポンド(公定レートで約7,500 – 11,000円)がかかるため、金銭的に余裕がない場合は、万が一感染している場合に備え、自宅での2週間の隔離生活を指示せざるを得ません。

検査できるケースは体調不良を訴えた10%にも満たず、多くは自宅隔離をしています。こうした状況のため、実際の感染者数は確認されているよりももっと多いのかもしれません。

現在のレバノンでは、基本的な権利であるはずの、全ての子どもたちが教育を受ける機会を得て、より良い将来を築くということが、冒頭に述べた厳しい経済状況、そして新型コロナウィルスによって非常に難しい状況にあります。

シリア難民の子どもに関しては、2018~2020年にかけて67~69%で推移していた小中学生の年代の子どもの就学率は、2021年には53%に急落しています。レバノン人であっても、経済危機や新型コロナウィルス、またベイルートの大規模爆発により、2020年には120万人の学齢期の子どもの教育が何らかの形で負の影響を受け、2021年9月現在40万人が学校に通うことができていません。

パルシックは、この新型コロナウィルス対策事業により、国籍を問わず少しでも多くの子どもたちが、安全に質の高い教育を受けられる機会を作ることができるよう、来年3月の事業終了まで取り組んでいきます。

[1]WFP, UNHCR and UNICEF, “VASyR 2020 Vulnerability Assessment of Syrian Refugees in Lebanon”2021年2月19日
[2] 極度の貧困は36%。OCHA ”Emergency Response Plan Lebanon 2021 -2022” 2021年9月(Rev. 1)
[3]2005年、2011年に次いで今回が3度目の首相就任。

(レバノン事務所 風間)

※この事業はジャパン・プラットフォームからの助成と皆さまからのご寄付で実施しています。

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アルサール市での教育活動(夏休み編) https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/19736/ Wed, 06 Oct 2021 04:35:13 +0000 https://www.parcic.org/?p=19736 パルシックは、2020年10月より、バアルベック・ヘルメール県アルサール市で、シリア難民の小学生500人に公教育の支援を行っています。

2021年6月末に2020年度の学年末を迎え、授業は終了しました。しかし、教科書の内容は一通り終えることができても、去年からの新型コロナウィルス感染拡大の影響で授業がオンラインになっていたことから、生徒の理解度はかなり低い状況になっていました。

そこでパルシックでは7月より、サマープログラムとして補習授業を行いました。7月から9月末までは夏休みなので、子どもたちは夏休み中の勉強を嫌がるかと思いましたが、シリア人の子どもたちは、夏休みといっても特別にすることもなく、それより学校に行くと友達に会え、何より難民キャンプより広いスペースの運動場があるので、どの子も学校を楽しみにしていました。

授業の様子

2020年度は、新型コロナウィルス感染拡大のリスクを減少する措置としてオンラインによる授業を行ってきましたが、2人以上の子どもが学校に通っている世帯では、携帯が一つしかないと、子どもたちのうちどちらかしか授業に参加できないということも多くありました。

パルシックでは、このような子どもたちに、教材を印刷して配布したり、授業を録画したりして、後で視聴できるようにました。こうした配慮が親にも伝わったのか、モニタリングで訪れた際には、お母さんも一緒にオンライン授業に参加したり、録画された授業をまずお母さんが学習してから子どもに教えたりしている様子が分かりました。

子どもたちの住むテントをモニタリングで訪問

教育には保護者のサポートもとても重要です。今までのパルシックのレバノンでの教育活動においても、どうすれば学校や教育センターだけでなく、保護者が家での教育に関わってもらえるかいつも悩んでいました。もともとシリア人は教育への関心が高く、ほぼ100%が中学までの教育を終了し、高校も約70%は終了しています。なので、現在パルシックが実施している初等教育の学習内容は、親でも理解できるのです。

夏休みの補習授業では、暑い中ずっと集中して勉強するのは大変なので、一日4時間の授業のうち2時間を主要教科の勉強、残りの2時間はレクリエーション活動を中心とした授業構成にしました。シリア難民の子どもたちは、テントに絵や文房具がないため、お絵描きや工作などができず、また物語の読み聞かせなどもテント生活では難しい状況があります。そのため、普段の生活の中でレバノン人の子どもと比べると、レクリエーションの時間が少ないのです。

レクリエーション活動で風車を作った子どもたち

レクリエーション活動では、校庭でのサッカーやバスケットボールなどの運動も取り入れました。キャンプでは、のびのびとボール遊びをする場所がなく、子どもたちのエネルギーがあり余っているという声を親からもよく聞いていたためです。校庭の地面が少し傾いていたので、安全にボール遊びができるよう、補習授業開始前に地面を平らにする補修工事なども行いました。

校庭で遊ぶ子ども

校庭の補修工事

現在レバノンの経済はとても悪い状態で、全ての物価が上昇しています。今、新学年に向けて準備をしていますが、特に教材やスクールバスのガソリンの値段の上昇が、どう事業に影響するのか心配です。パルシックが支援しているアルサールの学校だけでなく、レバノン全土で全ての公私立の学校が、物価上昇も考慮した予算をどれだけ確保できるのか、固唾をのんで見守っています。

パルシックでも、教育支援を行っている他の団体や国連機関、教育省から情報収集を行い、一人でも多くのシリア人の子どもに教育機会が与えられるよう頑張ります。

帰りのスクールバスを待つ子ども

(レバノン事務所 大野木雄樹)

*この事業はジャパン・プラットフォームの助成と皆さまのご寄付で実施しています。

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アルサール市での教育活動 https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/19427/ Tue, 13 Jul 2021 10:31:54 +0000 https://www.parcic.org/?p=19427 パルシックは、2020年10月より、レバノンでの教育支援活動をベカー県バル・エリヤス市からバアルベック・ヘルメール県アルサール市に移し、シリア難民の小学生の子ども500人に公教育の支援を行っています。

レバノンでは、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、教育省が授業のオンライン化を指示したため、2021年1月から全日オンラインで授業を行っていました。しかし、アルサール市のシリア人の子どもたちの95%はテント暮らしで、オンラインでの授業といってもインターネットが頻繁に途切れ、さらにはノートパソコンを持っていないため、授業を受けるのにスマホの小さなスクリーンをずっと見ているという子どもがほとんどの状況です。

先生は同じアルサール市に住むシリア人を雇い、ほぼ全員が子どもたちと同じようにテント暮らしをしているため、オンライン授業を受けることがどれほど大変かよく分かっています。そのため、教育機会のなかった子どもたちがオンライン授業で少しでも多くのことを学べるように、先生たちは授業に歌やクイズ等を取り入れて工夫を凝らし、質の高い授業になるよう努力してきました。

また、そもそもインターネットに繋がる機器を持っていない世帯も80世帯近くありました。機器を持っていないためにオンライン授業に参加できない子どもたちには、教材を印刷して配布し、回収・添削することで対応してきました。

対面授業が再開されるまでは教材とオンラインでの授業が行われていた。

教材を渡された女の子

世界中でオンライン授業に苦労している子どもたちがいますが、アルサール市のシリア人の子どもたちを定期的にテントまで訪問してモニタリングを行った結果、テントの中には机も椅子もなく、勉強する環境が整っていないという問題もあることが分かりました。子どもたちは、床にマットレスを敷いて座り、床にノートを置いて字を書いている状況で、複数の保護者から「せめて低い机だけでもあれば」との声を聞きました。子どもたちも、オンライン授業になって学校に行けず、「ずっと狭いテントで生活しています。早く学校に行きたいです。」と皆が口をそろえて言っていました。

子どもの住むテントにモニタリングで訪問

学校へはスクールバスで通う子どもたち

2021年5月、新型コロナウィルスの新規感染者数が大きく減った状態が続いたため、遂にオンラインと対面式の授業を交互に行うことが教育相より発表され、ようやく子どもたちが学校に登校することができるようになりました。子どもたちは、学校で友達に会うのを楽しみに待っていた様子で、学校初日は新品の服で登校している子どもを多く見かけました。 レバノンの学校では、6月下旬で2020年度が終わります。しかし、オンライン授業でカバーできなかった箇所が多くあるため、パルシックが支援している学校では7月も補習とレクリエーション活動を混ぜながら活動をしていく予定です。

子どもたちの健康状況を学校の入り口で先生たちが毎日確認している。

朝礼時に並ぶ子どもたち

アリとキリギリスの話を絵で描いた授業での作品の一つ

授業の様子

校庭の様子

校庭で遊ぶ子どもたち

(レバノン事務所 大野木雄樹)

*この事業はジャパン・プラットフォームの助成と、みなさまからのご寄付で実施しています。

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コロナ禍でのシリア難民への教育支援 https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/18629/ Tue, 02 Feb 2021 08:56:50 +0000 https://www.parcic.org/?p=18629 パルシックは2017年からシリア難民の子どもたちに教育の機会を提供すべく、ベカー県において教育センターを運営してきました。

3年目となる2019/2020年度は、問題が次々と発生し、教育センターを継続することが困難な状況が続きました。

2019年10月には、レバノン政府に対する大規模抗議デモが発生しました。 政府が、無料通話アプリ(WhatsAPP)の利用に対する課税を発表したことを発端に、低迷する経済と既存の政治体制への市民の不満が爆発したのです。抗議デモは、1か月ほど継続し、新学期が始まったばかりの教育センターも閉鎖せざるを得なくなりました。[1]

その後、11月に入り教育センターは再開しましたが、レバノンで初めて新型コロナウィルスの陽性者が確認されたことを受け、2020年2月末に教育センターを再度閉鎖することになりました。3月15日には、新型コロナウィルスの感染拡大防止対策の一環として厳しい外出制限を含む新型コロナウイルス感染拡大防止措置(総動員令)が発令されました。[2]外出制限により、日雇いなど非正規雇用で収入を得ていた難民は稼ぎを失いました。学校は閉鎖されたまま、子どもたちは、教育センターの再開をキャンプの中で待つ日々が続きました。

このような状況下で、パルシックは、子どもたちに教育機会を提供する方法を提携団体と相談し、4月から遠隔授業を開始しました。遠隔授業では、週に一度課題を配布し、回収した課題を教師が添削し学習のフォローアップを行います。さらに、教育センターの閉鎖に伴い給食を食べることが出来なくなった子どもと、収入がなくなり日々の食事に事欠くようになった世帯に食糧バスケットと感染対策用の衛生用品を配布しました。

今学期は2020年9月に終了しましたが、最後まで教育センターを再開することは出来ませんでした。2020年8月4日に発生したベイルート港の大規模爆発によって、政府機関が機能しなくなり、人の行動を制限できなくなったことから、一気に新型コロナウィルスの感染が拡大したのです。

不測の事態が次々と起こり、仕方がないとは理解しつつも、教育センターを再開できなかったことはとても残念なことでした。遠隔授業により学習の部分は補うことが出来ますが、教育センターに通うことで友達と遊んだり、体育や音楽など基礎科目以外の教科を学んだり、子どもたちが感情や情緒を育む場を提供できないことが非常に心残りでした。

一方で、良いニュースもありました。遠隔授業で就学前教育(日本では幼稚園に当たる)を受けた子どもたちが、所定のカリキュラムを修了したことが教育省から認められ、小学校への入学資格を得ることが出来たことです。 それ以外に、保護者からも嬉しいフィードバックがありました。 「避難生活により、長い間子どもたちが教育を受けることが出来ず、テントの中で毎日何もせず過ごしていました。教育施設の閉鎖に伴い、子どもたちが以前の何もしないでテントにいる状況がしばらく続くであろうと予想していたが、毎週教師が教材を配布してくれたおかげで、子どもたちは毎日有意義に過ごすことができ、とても嬉しかった。」と言われました。 子どもたちも、毎週受け取る新しい教材を楽しみにしている様子で、課題配布日にはキャンプの入り口でどの教師が配布に来るのか楽しみにして待っている姿もありました。

シリアやレバノンの未来を創っていく子どもたちが教育の機会を得ることは非常に重要なことです。ベカー県での教育支援は、今期で終了となりますが、北東部アルサールで新たに教育事業を開始し、これからも教育の機会を失った子どもたちに学ぶ場を提供していく予定です。

教育センタ―閉鎖前の授業の様子

校庭で遊ぶ子どもたち

スクールバス

給食を受け取る子どもたち

調理場の様子。お昼に間に合うために毎朝6時に調理開始。

教育センターが閉鎖し、給食もできなくなったため、食糧バスケット配布。

教育センターが閉鎖したことにより、遠隔授業に切り替え、課題を受け取る子ども。

教師は課題作成、印刷、添削のために教育センターでの活動は継続しました。

[1]レバノンでは、新学期が10月に開始します。
[2]総動員令は、感染状況により制限が緩和及び強化されたが、公共施設の閉鎖、マスク着用の義務、夜間の外出制限、車両運行に関する制限などの規制が、2020年12月31日まで継続されていた。

※この事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成および皆さまからのご寄付により実施しました。

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経済危機、コロナ禍、物価高騰の3重苦にあえぐレバノンで食糧品と衛生用品を配布しました https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/17256/ Mon, 20 Jul 2020 06:02:57 +0000 https://www.parcic.org/?p=17256 世界中でコロナ禍が続いていますが、レバノンは最も激しい危機にさらされている国の一つと言っていいでしょう。2019年10月、山積する問題に対して、何の対策も行わなかった政府に対する民衆の不満が爆発し、全土で大規模な抗議活動が始まりました。その後、レバノン経済は坂道を転がり落ちるように悪化し、今年の3月には、レバノンは、公的債務(約9.6兆円)のうち支払い期限を迎えた債務に対する不履行を宣言し、事実上の経済破綻に陥ってしまいました。そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウィルスです。ほとんどの店舗が数か月以上にわたって、ほとんど公的支援もないまま、閉店だけを余儀なくされた結果、失業率は40%、インフレ率は約40倍[1] 以上に膨れ上がり、経済危機と物価高騰の上にコロナ禍と、民衆は何重もの苦しみに喘いでいます。

レバノンは1975年から15年続いた内戦以来の危機に直面しており、現地通貨の急激な下落を受けて、国民の60%を占めると言われた中産階級の月収は約5分の1[2] まで減少、社会不安がいたるところに広がっています。そんな中、国連やNGOから支援を受けているシリア難民に対して、レバノン市民が立ち退きを要求したり、暴行を加えたりするといった事件も発生しています。しかし、そんな状況の中、シリアに帰還する予定だと答えているシリア難民はわずか1%[3] に過ぎません。どれだけレバノンが過酷な状況になろうとも、シリア国内が安定しないために、この国で黙って耐えていくしかないのが、シリア難民の置かれた現状なのです。

国連が今年の5月にまとめた報告書によると、シリア難民の97%が借金をしており、毛布など手元にあるものを手当たり次第に売って、わずかの食糧を得るというような生活を強いられています。そこで、パルシックでは、教育センターに通う子どもたちが住んでいるキャンプ565世帯(約3100人)に対して、食糧の配布を行いました。さらに、新型コロナウィルス感染対策として、マスクやグロープ、石鹸なども、600世帯(約3300人)に対して配布しています。

明日のパンすら購入できない母親は、「夫がコロナ禍によって、仕事を失った。この食糧品で、なんとかしばらくの間、子どもに食べさせることができる」と語った。

米やパスタ、油、豆などの12品目(50ドル相当)を配布

マスクや石鹸など、新型コロナウィルス感染対策の必須アイテムを配布

今後、数か月の間に、物価高騰と物資欠乏のため、レバノンではパンすら購入することができなくなると予想されています。パルシックでは、難民を飢餓から守るため、食糧配布に取り組んでいきます。

パルシックが提携団体と一緒に運営している教育センターは、レバノン教育省の通達に従い、新型コロナウィルスの感染予防のため2月末より閉鎖しています。7月時点でも教育省が指針を立てていないため、再開の目途はたっていません。パルシックでは、4月より遠隔による教育支援を継続しており、基礎科目の課題をシリア難民の教員が作成しては、週ごとに子どもたちの家庭に配布し続けています。子どもたちは一週間かけて課題に取り組み、その次の週に課題を提出すると共に、新しい課題を受け取ります。自宅での学習には、保護者の役割が重要になってくるため、教員は定期的に連絡を取りながら、相談を受けたり、子ども達の様子について聞いたりするようにしています。シリア難民の保護者の多くは、英語の読み書きができないため、翻訳アプリの使い方に関する説明を保護者に対して一斉に行ったりもしました。子ども達は、教員が課題を持ってくるのを、自宅の前で立って待っているほど楽しみにしており、テレビも娯楽もない生活の中で、学ぶことに喜びを見出しながら、この非常に困難な状況の中、たくましく生きています。

課題を受け取って喜ぶ姉妹。「おはじきで遊ぶのが大好きなの」と語る

教員が自宅で子どもたちが学べるように工夫して作成した課題。わからないことは、生徒が教員の訪問時に聞いたり、課題に質問を書いて先生から返事をもらうこともできる。

社会的不安が蔓延する中、多くのシリア難民の保護者や教員がかなりの不安やストレスをかかえながら、毎日を過ごしています。国連の報告書によると、1~14歳のシリア難民の子どものうち、約50%が何らかの身体的暴力などを受けており、60%が心理的な暴力や攻撃などを経験[4] していると言われています。特に、新型コロナウィルス感染対策に伴い自宅待機を要請されるようになってから、教育支援を行うNGOからも家庭内暴力の増加が多数報告されています。そこで、私たちは、臨床心理士を雇用し、保護者に対してオンラインでの心のサポートワークショップを行っています。また、教員に対しては、少人数ずつ教育センターに集め、ストレスへの対応方法や保護者への接し方、いじめなどの問題に対する対策について学ぶためのワークショップを定期的に実施しています。遠隔による活動や物価高騰による資金不足など、NGOが直面している課題はたくさんありますが、私たちは今できることを、難民の子どもたちに確実に届くような方法で継続して実践していきます。

現地通貨が昨年10月時点から6倍以上に下落している中、教員らもかなりの不安とストレスを抱えている。臨床心理士によるセッションを受けながら、子どもらが一人でも理解できるような課題を次々と作成している。

[1]https://tradingeconomics.com/lebanon/inflation-cpi
[2]https://www.arabnews.com/node/1695801/middle-east
[3] Monitoring of the Effects of the Economic Deterioration on Syrian Refugee Households (MEED – Syrians) Wave 1 (March 2020) P.11
[4]VASYR 2019 – Vulnerability Assessment of Syrian Refugees in Lebanon P.12

(レバノン事務所 南)

※この事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。

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ベカー県の教育センターで文房具セット・ジャケット・そろばんの配布 https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/16537/ Thu, 02 Apr 2020 01:52:33 +0000 https://www.parcic.org/?p=16537 日本では暖冬が続いていたようですが、こちらレバノンの内陸部ベカー県は盆地のため、まだまだ身を切るような寒さが続いています。そんな中でも、子どもたちは、パルシックが運営する教育センターに、毎日元気に通っていました。

先月は、子どもたちが使う通学バックと文具品セットの配布を行いました。日本では当たり前のように、どこでも購入できる文具品ですが、こちらでは消しゴム1つすら、難民の一家にとっては何度も買えるものではありません。また、安価なものほど質が悪く、購入した文具品がすぐ使えなくなってしまうこともよくあります。そのため、1つの消しゴムをクラス中で借りあったり、ノートを使い切ったために友達にノートの切れ端をわけてもらうといったことはよく起こっていました。パルシックでは、 様々な文具品をセットにして配布しましたが、消耗品ですので、また時期を見て子どもたちに必要な学用品を配布したいと思います。

文具品セットを受け取り喜ぶ子どもたち

文具品セットを受け取り喜ぶ子どもたち

また、厳しい寒さが続く中、子どもたちの多くが昨年や一昨年から同じジャケットを着続けており、身体のサイズに合わなかったり、着古して防寒の役目を果たさなくなっていることから、防寒着の一斉配布を行いました。色や柄、サイズに関してもできるだけ配慮し、豊富に揃えた上で実施しましたが、高学年の子どもの中にはどのジャケットも小さすぎて入らない子どももいました。また、10代の多感な子どもの中には、こころなしかがっかりしているように見られる子どももおり、聞いてみると、自分好みの柄じゃなかったということでした。

でも、これはわがままなのでしょうか。自分の好きな色や柄のジャケットを着たいというのは、本当に自然な人間としての欲求で、こちらで勝手に選んだ服を感謝して着るようにというのは、もしかしたら押し付けなのかもしれません。サイズや柄があわなかった子どもに関しては、購入先の店舗で後日、交換対応してもらうことになりました。すべての子どもが自分の好きな柄や色の服を選ぶことができればそれが一番良いのですが。スタッフや先生にとって、配布を行うためには常にいくつもの課題があります。

「昨年もらったジャケットは小さくてとても着づらかった。新しいジャケットをもらえてとても嬉しい」という教育センターの児童

「昨年もらったジャケットは小さくてとても着づらかった。新しいジャケットをもらえてとても嬉しい」という教育センターの児童

6~12歳児の教育センターの先生は、ほぼ全員がシリア難民です。生徒と同じようにシリアから避難してきて、レバノンでの過酷な現状に直面しながらも、その日を生き抜いている先生たちだからこそ、生徒たちの気持ちを理解し、受け止め、よき相談相手となることができます。そんなシリア難民の先生の1人が、算数を教えるハイヤーン先生です。シリアのアレッポから内戦を逃れてこの地にやってきました。インターネットを通じてそろばんのことを知り、独学で勉強した後、そろばんの専門機関で資格を取りました。ハイヤーン先生の授業はいつも活気に満ちています。先生が問題を出すと、答えたくて立ち上がって挙手する生徒たちでいっぱいになります。そんなハイヤーン先生の悩みは、そろばんが1つしかないことでした。生徒たちに教えたくても、暗算という形でしか教えられない。そんな先生と子どもたちに手を差し伸べたのが、兵庫県小野市役所でした。

日本のそろばん生産のシェア70%を占める2大産地の1つ、小野市は、10年以上前から中古のそろばんを集めては、海外の教育現場への寄贈を積み重ねてきました。同市のご厚意によって、2020年1月、80丁のそろばんが海を越えて無事、パルシックのレバノン事務所に到着し、子どもたちに配ることが出来ました。

▽ 兵庫県大野市行政サイト:そろばんリユース事業にご協力ください

https://www.city.ono.hyogo.jp/1/8/32/n102/3/

▽ 神戸新聞NEXT:シリア難民の子どもにそろばん80丁寄贈 小野市

https://www.kobe-np.co.jp/news/hokuban/202001/0013010998.shtml

子どもたちは初めて触れる大きなそろばんの感触に目を輝かせ、早速、ハイヤーン先生とともに1桁の計算方法から習います。週に1度はそろばんを使った授業を取り入れることになり、子どもたちはそろばんを通じて算数の学力を力強く伸ばしていくことでしょう。子どもたちの成果については、いずれまたお伝えできればと思います。

小野市から頂いたそろばんを手にして喜び一杯の子どもたち

小野市からいただいたそろばんを手にして喜び一杯の子どもたち

【追記】
2月21日にレバノン国内で初めてのコロナウイルス感染者が確認されたことを受け、UNICEFの勧告に基づき、2月29日以降教育センターの運営を停止しています。レバノン政府の方針により、3月15日より外出禁止令が発令され、4月12日まで不要不急の外出の禁止、公共及び民間施設の閉鎖が続く予定です。教育センターに通う子どもたちの世帯の多くは近隣の難民キャンプで生活しており、生活環境が悪いため、コロナウイルス感染のリスクが非常に高いことが心配されています。

パルシックは、提携団体と協力して衛生用品の配布や食糧バスケットの配布を実施する予定です。

(レバノン事務所 南)

※この事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成および皆さまからのご寄付により実施しています。
※そろばんの配布は、兵庫県小野市のご支援で実施しました。

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家庭訪問から見えたキャンプで暮らす人びとの生活 https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/16177/ Thu, 27 Feb 2020 03:48:50 +0000 https://www.parcic.org/?p=16177 レバノンの内陸部べカー県バル・エリアス市でパルシックが支援している教育センターに3人の娘さんを通わせているカーリッドさん(仮名)一家を家庭訪問しました。

カーリッドさん(73歳)は、2017年までシリアのアレッポ郊外に住んでいましたが、戦闘が非常に激しくなり、5人の娘を連れてレバノンに文字通り、着の身着のまま17日間かけて、避難してきました。今は、教育センターのすぐ横にあるユーセフ難民キャンプに住んでいます。妻のハディージャさんは43歳ですが、低血圧で病気がちです。

ご主人が高齢で働けないため、農地で草刈りや玉ねぎなどの収穫を行う仕事を2年間しました。ハディージャさんは「朝は4時から働き始めて、夜は5時頃まで一日中働き続けたわ。若い女性たちは果物などを積む仕事を、私たち中年の女性たちは大地にはいつくばって、草むしりや野菜を掘り起こす仕事をしたの。一日中、泥だらけになって働いても、たった500円ももらえないのよ。シリアにいた時は、専業主婦で一度も働いたことなんかなかった。それでも、家族を支えるために歯を食いしばって働いたわ。でも、栄養が足りないせいか、血圧が低すぎて働けなくなってしまった。今は国連の支援以外、何の収入もないの。支援もいつ途絶えるのかといつも心配です。」とレバノンに来てからの生活の様子を教えてくれました。

1日10時間以上の過酷な労働を経ても、手にする現金はたった500円足らず。非常に物価が高いレバノンでは、安い果物や野菜を買うのが精一杯です。子どもは娘5人で、頼りになる男性の稼ぎ手はありません。そんなカーリッドさん一家に、201910月以降続くレバノンの経済危機が追い打ちをかけています。カーリッドさんによると「市場に行っても、物価が2倍、3倍に膨れ上がって何も買えない。汁物と野菜を食べるのが精一杯だよ。」

家庭訪問した時には、4歳と5歳の娘さんが家にいましたが、ほとんど何の玩具も本もなく、小さなテレビがついているだけ。この年齢の子どもは元気に歌ったり走り回るものですが、部屋の中は寒く、栄養も足りないせいか、二人ともぐったりしたように大人しく、ほとんど何も話しませんでした。

「食べるものがない中、教育センターで提供される給食にはとても感謝しています。娘たちは、センターでは給食を食べずに、そっと妹たちのために持って帰ってくるのよ。シリアでは内戦のせいで一度も学校に通っていなかったから、ここで通学できてとても喜んでいます。長女のアリマス(9歳)は、成績もいつもよくて英語の綴りも上手にかけるのよ。勉強熱心で、配布された学用品のノートを使い切ってしまい、買いにいったほどです。」

帰り際にカーリッドさんが言いました。

「いつかシリアで戦争が終われば、故郷に帰りたい。わしが何とか帰れるうちに。」

家具も何もないカーリッドさんの家。ガランとした一間があるだけ。

家具も何もないカーリッドさんの家。ガランとした一間があるだけ

カーリッドさんが暮らすユーセフ難民キャンプの様子。

カーリッドさんが暮らすユーセフ難民キャンプの様子

冬場でも、小さな子どもたちの履く靴は、安価なプラスチック製のサンダルしかない。

冬場でも、小さな子どもたちの履く靴は安価なプラスチック製のサンダルしかない

(レバノン事務所 南)

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レバノン:子どもたちが公立学校に通えるようになる日 https://www.parcic.org/report/syria_turkey_lebanon/lebanon_education/15256/ Sat, 07 Sep 2019 05:58:57 +0000 https://www.parcic.org/?p=15256 パルシックでは、レバノンの内陸部べカー県バル・エリアスにある教育センターで、5歳児の子どもたちを対象にした就学前教育を実施しています。日本では、いわゆる幼稚園の年長さん組にあたります。数年前からパルシックではこの事業を実施してきましたが、今年の4月より新しく画期的な教育制度を導入することができました。

それは、この年長さん組が所定の時間(350時間)以上通うと、レバノンの教育省から正式な修了証をもらうことができ、卒業後はレバノンの公立学校に1年生として通うことができるようになったことです。ここまで読んだ皆さんは、そんなこと当たり前じゃないかと思われるかもしれません。

しかし、シリア難民の子どもがレバノンの公立学校に通うのは、実は非常に難しいことなのです。特に、シリア難民の数が最も多いバル・エリアスでは、公立学校は常に満杯で、シリア難民の子どもたちは学校に登録しても待機児童となり、長い場合は数年かけて待たなければならないのです。そのため、多くのNGOが補習クラスや教育センターなどを開講し、レバノンの公立学校に通うことができるまで、教育を代わりに提供しているのが現状です。

しかし、先ほどご紹介した教育センターは、レバノンの教育省から就学前教育センターとしての正式な認可をもらうことができたため、正式な修了証を子どもたちに授与することができるようになりました。レバノンでは、教育省の認可を受けている教育センターは非常に少なく、ここに至るまでの道のりはたやすいものではありませんでした。私たちの提携団体であるSAWA(Sawa for Development & Aid)のスタッフとパルシックの職員が一丸となって努力してきた賜物と言えるかもしれません。

子どもたちは8月末には年長組を卒業することになっています。子どもたちが修了証を受け取り、晴れてレバノンの公立学校に通うようになる日が、今から待ち遠しく感じられます。

タブレットを使った最新教育も導入している。ゲームや歌を取り入れ、子どもが受け身ではなく、自発的に学べるように工夫している。

タブレットを使った最新教育も導入している。ゲームや歌を取り入れ、子どもが受け身ではなく、自発的に学べるように工夫している。

この教育センターでは、5クラス計100人のシリア難民の子どもたちが毎日学んでいます。レバノン教育省の指導方針に従い、高い基準で選ばれたレバノン人のベテランの先生たちが、アラビア語、算数、英語などを教えています。子どもたちがいつも楽しみにしているのは、木曜日。なぜなら、木曜日のお昼は皆で校庭に集まってご飯を食べる日だからです。教育センターのニダール校長先生は、どんなに仕事が忙しくても、必ず木曜日は先生たちと一緒に子どもたちにパンやジュースを配ります。

自身もシリア難民で30年以上教育に従事してきたニダール先生は言います。

「現実は厳しく、私にできることは限られているかもしれない。でも、ここで子どもたちが集まって、嬉しそうに食事している風景を見るのが何よりも嬉しいんだ」。

皆で楽しくおしゃべりしながら、具入りパンと果物ジュースを頂きます。

皆で楽しくおしゃべりしながら、具入りパンと果物ジュースを頂きます。

この教育センターに通う子どもたちのお家を訪問しました。教育センターのすぐ横にあるシリア難民キャンプに住むお母さんの1人は、双子の娘(5歳)を教育センターに通わせています。家で2歳と4歳の子どもたちをあやしながら、お母さんはこう語ってくれました。

「子どもたちは、教育センターに通うのが大好きなんです。特に英語が好きみたいで、家でも英語で話したり、歌ったりするのを見ていると、私まで嬉しくなります。実は、私はシリアのダラア出身で、小学校しか卒業していないんです。だからこそ、娘たちにはちゃんとした教育を受けさせたい。この教育センターを卒業したら、念願のレバノン公立学校に通うことができるようになります。いつか、シリアに帰っても、ちゃんと娘たちが教育を受け続けることができるように、親として精一杯のことをしたいと思っています」。

シリア内戦直後にレバノンに逃げてきて、早7年以上、同じキャンプに住んでいる。暮らしぶりは何もよくならず、4人の子どもを必死で育てる毎日の中で、子どもが教育センターでしっかり学んでいることが何よりの励みになっているという。

シリア内戦直後にレバノンに逃げてきて早7年以上、同じキャンプに住んでいる。暮らしぶりは何もよくならず、4人の子どもを必死で育てる毎日の中で、子どもが教育センターでしっかり学んでいることが何よりの励みになっているという。

(レバノン事務所 南)

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