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ガザ人道支援

家庭から始める子どものケア②:保護者向けワークショップ

今回は保護者向けのワークショップについてご紹介しようと思います。

保護者を対象とするワークショップでは、毎回家庭でできる子どものPTSD症状緩和のためのサポート方法を教えるとともに、保護者自身の心理的ストレスケアのためのアクティビティを組み合わせて提供しています。

例えば、ある日の保護者向けトレーニングのプログラムは子どもたちの「孤独」にどう対処していくかというテーマを取り上げました。

専門の心理療法士サマールが、「孤独とは、周囲の人々が社交的になっているにもかかわらず、一人ぼっちのように感じることです。子どもの場合は5歳になるまでは、その子が孤独を感じているかどうかを判断することは難しいです」と「孤独」について説明していきます。「どういうときに孤独を感じるか。子どもたちの場合は、自由時間が長く、不安があること、自信を失い、周囲の人びとからも自信を感じられないこと、親が支配的で監視が強いこと、継続的あるいは繰り返し同じことに失敗していることなどが長い期間続くときなどです。」

真剣にサマールの説明を聞く保護者たち

真剣にサマールの説明を聞く保護者たち

そして参加している保護者達にも自身の経験を語ってもらうよう呼びかけます。

すると、12歳の息子ファディくんのお母さんナワルさんがみんなの前で自身の経験を語ってくれました。「ファディは自信を失っていたので、私は自信をつけようと色々なことを彼自身にやってみるように励まし続けました。例えばデル・アルバラの街やラファに一人で行かせたり、家でもものの修理を任せたりしてみました。そうしたら、今では自信をとりもどし、修理を任せたときはいつもうれしそうにしています」

孤独を和らげるにはどうしたらよいのか、ということに議論が進みます。子どもたちの感情を理解する、子どもたちが友達を作れるよう励ます、友達がいるとどんないいことがあるか説明する、自信を付けられるように支援する、子どもたちが楽しいことをできる時間を持つ、友達と一緒に何かをしてみる、ボランティアをして人びととよりたくさん関わりを持つ、保護者達が口だけでなく子どもへ愛情を示す、などが挙がりました。

議論の最後にサマールが、「孤独はうつやストレス、不安感、睡眠障害、孤立や低い自己肯定感につながる危険がある」とケアの重要性を確認しました。

その後、今度は少し体を動かすアクティビティを行います。この日は2つのゲームをやってみました。

一つは、「固まって動いて(Stone and Go)」というゲーム。日本の「だるまさんが転んだ」と少し似ていますが、音楽が流れる間、参加者たちは体を動かし続け、音楽が止まると自分も固まって「石」にならなければなりません。止まっている間、サマールがあの手この手で参加者たちを動かそうとしたり笑わせようとしたりします。結局、保護者の一人が優勝し、サマールが「自分の感情と動きをコントロールするだけの心の強さがありますね」とたたえました。

「石」になる…のは意外と難しい?

「石」になる…のは意外と難しい?

2つ目は「間違い探し/この部屋の何が変わった?」です。サマールが参加者を2つのグループに分け、一つのグループを退出させます。その間にもう一つのグループが部屋の椅子や参加者の持ち物の位置などを動かし、戻ってきた最初のグループが「何が変化したのか」を探します。こうしたゲームは、保護者達が日常のストレスから解放されて楽めるリラクゼーションのアクティビティであると同時に、「忍耐力」「注意力」「集中力」を養う上でも役に立ちます。

ワークショップでは、他にも「どのように子どもの健全な発達をサポートしていくのか」「子どもの権利とはなにか」といった子育てや子どもへの接し方に関するもの、「夜尿症」「睡眠障害」「不安感」「爪の噛み癖」といった実際のPTSD症状への対処法、またコミュニティでも問題となっている「セクシャルハラスメント」などのテーマも取り上げています。

こうしたワークショップに加え、アミューズメントパークへの遠足など、子どもと保護者が一緒に楽しめるイベントも提供しています。

子どもたちと一緒にお母さんお父さんたちもそわそわ

子どもたちと一緒にお母さんお父さんたちもそわそわ

制約の多い生活環境で思いきり遊べる機会は大人にとっても貴重

制約の多い生活環境で思いきり遊べる機会は大人にとっても貴重

【参加者の声】

〇アベール・アブマガセーブさん

アベールさんは、子どもの心理社会的ケアプログラムに通う9歳のデーナさんのお母さん。「娘は本当に楽しそうに通っています。ワークショップのある日を心待ちにしていて、その日何を学んだかを教えてくれるんですよ」といいます。

彼女自身もパルシックの提供する保護者向けワークショップに5回参加し、紛争を経験した子どものPTSDや子育ての悩み、自身もかかえるトラウマとの向き合い方を熱心に学んできました。「最初、夫は私がワークショップに通うことにいい顔をしませんでした。週に2日間も行くなんて多すぎる!家の仕事もあるのにって。でも今は何も言わなくなりました」と振り返ります。「セクシャルハラスメントのようなテーマを学べたのは本当に良かったです。目から鱗でした。子どもたちにそんな危険があるということに今まで気づいていなかったんです。」保護者向けワークショップに通う中で、子どもたちの話に耳を傾け、コミュニケーションをとること、センシティブなことを話し合う方法も学んだといいます。「前はこうしたことを話すのに気後れしてしまっていたのですが、いまではセクハラのようなセンシティブなことも娘と話し合う勇気が持てるようになりました」と力強く語ってくれました。

ワークショップに参加するアベールさん

ワークショップに参加するアベールさん

※この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成を受け、現地パートナー団体DBRSと協力のもと実施しています(続く)