PARCIC

ガザ人道支援

家庭から始める子どものケア① 包括的な子どものケア体制構築をめざして

パレスチナ自治区ガザ地区で生まれた6歳以上の子どもたちは、2008-2009年、2012年、2014年と少なくとも3度にわたり戦争を経験しています。現在でもガザの子どもたちの4人に1人は心理社会的ケアを必要としていると言われます。パルシックでは、2015年3月からトラウマを抱えた子どもたちへ心理社会的ケアを実施していましたが、2016年4月より新たな事業に取り組んできました。子どもの心理社会的ケアを長く継続的に実施していくための家庭・地域の体制づくりです。

子どもたちが心理社会的ケアプログラムを受けることで、PTSDの症状はある程度回復しますが、学校もある忙しい子どもたちがケアを受けられるのは毎週のほんの短い時間です。心の傷はなお根深く、レアなケースながら、ケアプログラムが終了し、通うのをやめてしまった後に症状が逆戻りしてしまう子どもたちもいます。2007年6月より10年近く続くイスラエルのガザ封鎖で先が見えない不安と閉塞感が蔓延する中、地域や家庭における高い失業率、麻薬、ドメスティックバイオレンスといった社会問題も子どもたちの回復に暗い影を落としています。

ワークショップに参加する子どもたち

ワークショップに参加する子どもたち

パルシックのワークショップに通う子どもたち

パルシックのワークショップに通う子どもたち

こうした状況を鑑み、パルシックでは2つのことに取り組むことにしました。

1つは、子どもを対象とした活動を行っているCBOs(Community Based Organization:住民自治組織や特定のコミュニティでのみ活動を行う団体)のスタッフやボランティアに、心理社会的ケア技術研修及びOJT(On the Job Training:実践を通したトレーニング)を提供して、より専門的なケア技術を習得してもらい、子どもを対象とした今後の活動に取り入れてもらう試みです。

そしてもう1つが、家庭で子どもたちの世話を第一義的に担う保護者に対する支援です。子どもの心理社会的ケアの知識や子育てに関するワークショップを提供し、子どもたちのトラウマへの対処法等を学んでもらうとともに、リラクゼーションやストレスケアのアクティビティを併せて行っています。背景には、保護者たちもまた子どもたち同様数度にわたる戦争を経験しており、さらに社会的な制約や生活苦からくるストレスを抱えているということがあります。そんな彼らに、自分自身のトラウマやストレスとの向き合い方も身につけてもらい、ケアや子育てにも心理的な余裕がもてるよう支援します。

この2本柱をもって、子どもたちを支える周囲の大人たちが、日常生活において、子どもたちのPTSD症状の緩和や、レジリエンスの向上に取り組めるようになるような体制づくりを目指しています。

ワークショップを実施する研修生

ワークショップを実施する研修生

保護者向けワークショップの様子

保護者向けワークショップの様子

事業を実施しているのは、ガザ中部に位置するデル・アルバラ地区のコミュニティ、ワディ・アッサルカとアルヘカです。

ワディ・アルサルカは6.5㎢の土地に人口6,145人が散在して暮らす農村地帯です。事業を開始した2016年4月時点で子どものケアを行う団体は他におらず、支援が手薄になっていた地域です。一方、アルヘカは、ユダヤ人入植地の1つ、クファル・ダローム(Kfar Darom、400人ほどが居住していた)があった跡地に隣接する地域です。イスラエルによるガザ地区の違法入植地が2005年に全面撤廃されるまでは、ガザ地区内でもヨルダン川西岸地区と同様にイスラエル人入植者のコミュニティが点在していました。1948年イスラエル建国により難民となってガザ地区へ避難してきたパレスチナ人の家族が、1967年クファル・ダローム入植地ができたことで土地を再び追われ、隣接するこのアルヘカに流れ込んできたことでできたコミュニティです。そのため、難民キャンプではないものの、0.233㎢の土地に2万2000人が住んでおり、難民キャンプ並みに人口過密となっています 。そしてアルヘカの人口の半数は18歳以下の子どもが占めています。

(ガザスタッフ 子ども事業担当 タグリード)

※この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成を受け、現地パートナー団体DBRSと協力のもと実施しています。(続く)