ガザ地区における羊の畜産支援 – 特定非営利活動法人パルシック(PARCIC) https://www.parcic.org 東ティモール、スリランカ、マレーシア、パレスチナ、トルコ・レバノン(シリア難民支援)でフェアトレードを含めた「民際協力」活動を展開するNGO。プロジェクト紹介、フェアトレード商品販売など。 Wed, 27 Sep 2023 07:53:27 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.1 パニカムの豊作と干し草作り https://www.parcic.org/report/palestine/gaza_livestock/23210/ Wed, 27 Sep 2023 07:53:27 +0000 https://www.parcic.org/?p=23210 ガザ地区の小規模畜産農家の多くは、羊の飼料をイスラエルからの高額な輸入飼料に依存しており、大きな負担となっています。羊の畜産支援事業では、輸入飼料に代わって家畜のエサになるよう、イネ科のパニカムという植物を育てています。

ガザ地区では、パニカムは一般的な羊の飼料として市場に出回っていないため、この事業に参加するまで、農家の人たちはパニカムを栽培したことがありませんでした。2022年10月から始めた栽培では、これまで4回ほど収穫を経験しました。多年生植物のパニカムは年に8回ほど収穫が可能ですが、収穫量が増えるのは5月から11月です。この間に少しでも多く収穫できるよう、農業専門家と水やりの頻度や肥料の量について話し合いを重ねながら、農作業に取り組んでいます。その努力の甲斐があって、パニカムの収穫量は増えつつあります。7月中旬、収穫を喜ぶ参加農家の皆さんから写真が届きました。

パニカムが背丈よりも大きく育ちました(Maherさん)

豊作を喜ぶElianさん

闘病生活を経て事業に復帰したJehadさん。人一倍の意気込みを語ってくれました

収穫の後、参加農家たちはパニカムを青草のまま与えるものと、干し草にするものとに分けます。青草は栄養価が高く、農業専門家によれば羊にとって味もおいしいので、羊は青草のままパニカムを食べるのを好みます。一方で、豊作期以外の12月から5月に与えるための備蓄飼料も必要です。そこで、パニカムの収穫量を測って干し草用に分け、1ヶ月間ほど外干しして乾燥させます。乾燥したパニカムは農業用粉砕機で細かく粉砕し、袋に入れて保管します。

パニカムを計量するElianさん

収穫したパニカムの一部を1ヶ月ほど外干しして乾燥させます

干し草がたくさんできて喜ぶJehad Sarhanさん

干し草は14kgごと袋に詰めて冬期の備蓄飼料として保管します

また、パニカムの栽培と併行して、飼料作物に関する畜産技術研修も行いました。参加者たちは、15種類の羊飼料を実際に見て触り、それぞれの飼料の栄養価や羊に与える際の適切な組み合わせなどについて学びました。

羊の飼料を説明する畜産専門家(Mahmoud)

保守的な地域のため、研修は男性と女性が別の時間に受けられるように実施しています

今年の豊作期が終わる11月までに少しでも多くのパニカムを収穫できるよう、参加農家はがんばっています。そして、一年を通じて羊に安定的にエサを与えられるように、パニカムで干し草を作り、収穫量が減る冬に備えます。冬の到来を前に、残りの期間でどれだけ収穫できるか楽しみです!

(西岸事務所 吉田)

*この事業は日本NGO連携無償資金協力の助成と皆さまからのご寄付により実施しています。

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美味しい乳製品を作っています!(女性組合の活動) https://www.parcic.org/report/palestine/gaza_livestock/22918/ Mon, 10 Jul 2023 09:12:54 +0000 https://www.parcic.org/?p=22918 酪農を通じた女性グループの生計支援事業」(2018年1月~2022年2月)でパルシックが支援してきた女性たちのうち、44人が女性協同組合のメンバーとして活動を続けています。2022年1月ラファ県アルショカ村にチーズ工場をオープンしてから(チーズ工場のオープニングの様子)、組合メンバーはそれぞれの得意分野を生かして役割分担し、乳製品を常時生産できる体制を作り、市場の拡大や新商品の開発を行ってきました。

同組合では現在、牛乳のチーズと羊乳のチーズ、製菓用のチーズとヨーグルトを中心に常時製造・販売しています。具体的にどのような商品を作っているか、ご紹介します。まずは牛乳のチーズと羊乳のチーズです。

牛乳のチーズは主に2種類(AsfateetとHaseera)あり、HaseeraはAsfateetと比べると水分量が少なく濃厚です。ガザ事務所のスタッフで、女性組合のチーズの販売やマーケティングを熱心に支援するシャディは、とりわけHaseeraが美味しいと絶賛します。

パッケージ前の、型に入れて成形した牛乳のチーズ(Asfateet)

袋に入っているのが牛乳のチーズ(Haseera) で、青いプラスティック容器は水切りヨーグルトのラバネ

牛乳のチーズ(Haseera)をパッケージ用サイズにカットしたところ

一方羊乳のチーズは希少で、羊の搾乳シーズンのみ製造と販売ができます。私たちが畜産支援をしている小規模羊農家50世帯が搾乳した羊乳の一部も女性組合が購入し、羊乳チーズの原料となっています。(前回記事:「搾乳機で、羊の羊乳が楽しく簡単に

羊のチーズのパッケージ

日本で製菓用のチーズというと、お菓子作りをされる方はクリームチーズやマスカルポーネなどの柔らかいチーズが思い浮かぶのではないでしょうか。女性組合で作っている製菓用のチーズは、弾力があって伸びがよく、パレスチナの定番のお菓子クナーフェ[1]に欠かせない材料です。

クナーフェ(西岸地区のナブルス発祥のアラブスイーツ)にも使われる製菓用のチーズ

続いてヨーグルトです。ヨーグルトは日本でも売っているような普通のヨーグルトとラバネと呼ばれる中東地域でよく食べられる水切りヨーグルト、サワーヨーグルトと呼ばれる甘さ控えめで少しこってりした飲むヨーグルトがあります。ガザ地区にはこれらのヨーグルトの製造会社が多く、市場での競争相手が多い商品となっています。そのため女性組合では、ユニークな商品として唐辛子が入ったサワーヨーグルトを製造し、販売しています。味はアクセントになる程度の辛みがありますが、基本的には甘さ控えめの飲むヨーグルトです。唐辛子入りのサワーヨーグルトはガザではよく飲まれているものですが、一般的に各家庭で普通のサワーヨーグルトに唐辛子を入れて作るもので、商品として売るのは珍しい試みです。

左がヨーグルトで右が唐辛子入りのサワーヨーグルト

これらの商品はスーパーマーケットに卸売りするほか、地元の小さな商店や個人で販売を行っています。今後さらに多くの地元の方に購入していただけるよう、組合は営業活動にも力を入れていく計画をたてています。 

常時製造ではありませんが、展示会用にパプリカ入りのチーズも作りました

いろいろな種類のチーズを試作し、商品開発に取り組んでいます

私はまだこれらのチーズを食べたことがないため、実際に食べられる日を心待ちにしています。これからも女性組合を応援していきたいと思います!

[1]クナーフェとは、パレスチナのナブルス発祥のお菓子。チーズの上にセモリナ粉でできたカリカリの生地をのせ、甘いシロップをかけてピスタチオをまぶした伝統菓子。

(西岸事務所 吉田)

*この事業は日本NGO連携無償資金協力、連合・愛のカンパの助成および皆さまからのご寄付によって実施しています。

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搾乳機で、羊の搾乳が楽しく簡単に https://www.parcic.org/report/palestine/gaza_livestock/22768/ Tue, 13 Jun 2023 05:04:38 +0000 https://www.parcic.org/?p=22768 5月9日から約5日間続いたイスラエル軍とガザの抵抗勢力組織の衝突から一ヶ月が経過しました。交戦中は一時停止していた畜産支援事業も無事再開しています。(空爆に関する記事:「ガザの停戦を受けて-現地からの報告-

6月は羊の繁殖期です。畜産専門家や獣医によるアドバイスを受けて、羊の交配が始まっています。また、3月から4月に生まれた仔羊を販売するシーズンも始まっており、複数頭の仔羊が生まれた農家は、そのうち数頭を販売し収入を得ています。

時間が遡りますが、3月、4月に仔羊が生まれた農家は、5月初旬まで搾乳で忙しくしていました。空爆前の4月に、事業に参加している50世帯の羊農家に手動搾乳機を配付しました。これまで参加者は羊の搾乳を手で行っていましたが、搾乳機を使用することで素手で触れることなく保存容器に溜められるので、羊乳をより衛生的に管理できるようになり、誰でも簡単かつスピーディーに搾乳できるようになりました。

搾乳機。ハンドルを握ることによって、力加減を一定にできるので誰でも簡単に搾乳できます

黒色キャップは羊の乳房を模したもので、孤児や双子の仔羊に乳を飲ませるときに使用します

アル・マナーラ村の参加者 ヌジュドさんへのインタビュー

早朝の搾乳の時間、西岸事務所とガザをビデオ通話で繋ぎ、搾乳中のヌジュドさんにインタビューしました。

(吉田)「ヌジュドさんは毎日搾乳をしているのですか?手動搾乳機には慣れましたか?」

(ヌジュドさん)「手動搾乳機をいただき、毎朝夫と楽しく搾乳していますよ。夫が搾乳をしている最中は私が羊の頭を撫でて羊が穏やかでいるようにします。手動搾乳機を使い始めた当初は若干の難しさを感じましたが、今では慣れて以前よりも簡単かつスピーディーに搾乳ができて助かっています。」

手動搾乳機を羊の乳房にセット

(手前)夫のハムディさん。(奥)ヌジュドさん。早朝から夫婦共同作業で搾乳を楽しむことが日課になりました

ヌジュドさんも慣れた手つきで搾乳しています

子どもたちも搾りたての羊乳を喜んでいます

(吉田)「小さなお子さんも羊がお好きなようですね。搾乳した羊乳はどうしていますか?」

(ヌジュドさん)「羊は家族の一員です。私は子どもが8人いますが、子どもたちも羊が大好きです。また羊乳も皆大好きです。今まで他の羊農家から羊乳を購入することもありましたが、水でかさ増しされていました。それと比べると、自分たちで育てた羊の羊乳は100%ピュアで、濃厚かつミネラルが豊富だと感じます。とても美味しいです。また自分たちで羊の体調に合わせて薬を与え、健康状態も毎日確認していますので、羊乳も安心して飲めます。一部はミルクのまま、またはチーズに加工をして子どもたちと食べます。残りは女性組合(*)に販売しています。」

*「ガザ地区女性世帯への生計支援」に参加した女性たちが結成した協同組合。乳製品を作り販売している。

羊と遊ぶのが大好きな末っ子

羊は家族の一員です。みんなで大切に飼育しています

最後にヌジュドさんの今後の目標を尋ねたところ、「大きな農場が欲しいです。今後も羊をたくさん育てて規模を拡大したいですね」とのことでした。

ヌジュドさん、ありがとうございます!これからも、楽しみながら羊の飼育を続けていってくださいね。

(西岸事務所 吉田)

※この事業は日本NGO無償連携資金協力、連合愛のカンパの助成および皆さまからのご寄付によって実施しています。

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ガザの停戦を受けて-現地からの報告- https://www.parcic.org/report/palestine/gaza_livestock/22637/ Mon, 22 May 2023 09:34:20 +0000 https://www.parcic.org/?p=22637 5月9日から5日間、イスラエル軍とガザの抵抗勢力組織の間で衝突が起こり、ガザ全域が空爆の被害を受けました。ガザ全域で181名が死傷し、948名がガザ地区内で避難を余儀なくされているほか、940戸の住宅が破壊や損壊等の被害を受けたと報告されています。 また、イスラエル側もミサイルの攻撃を受け38名の死傷者が出ています(*)。

私たちの畜産支援の活動地であるハン・ユニス県も空爆を受けました。5月17日現在、幸い関係者全員の無事を確認できています。また、空爆中に参加農家から羊の容態や避難方法などの問い合わせを受け、畜産専門家を中心に電話対応を続けたことで、羊の被害も出ておらず、皆で安堵しています。

ガザ事務所の同僚たちは空爆のたびに家が揺れて、家財も損傷し、爆音に苛まれたと言います。特に夜にかけて空爆が激しさを増すことから、同僚を含めてガザの人びとは極度の緊張感で眠れない夜が続き、疲れ果てたとのことでした。そのような中でも、この状況を日本の皆さんにも知ってもらいたいと、ガザスタッフ2人が状況を教えてくれました。

ガザスタッフの声を届けます

ガザ事務所のサハルは空爆が続く中、メッセージをくれました。

「私たちはこれまで何度も空爆を経験しています。私も2008年の空爆で兄弟を亡くし、その悲しみは今も癒えることはありません。しかし、この繰り返しに慣れていて、交戦中の現在も空爆の懸念はありますが、中断している仕事の方が気がかりです。しかし夜になると、子どもたちや4人の孫が心配で、愛する人を失う怖さに苛まれます。自分自身の命よりも、愛する子どもや孫たちを失うことだけは絶対に受け入れられません。ガザ域内の速報ニュースで、子どもが泣き叫ぶ映像や親を失って孤児となった子どもを見ると、胸が潰れそうになるのです。」

日頃は快活でエネルギーに溢れ、ガザ事務所全体にとって頼れる肝っ玉お母さんのようなサハルですが、生まれも育ちもガザである彼女の深い悲しみを感じずにはいられませんでした。

11歳、6歳、1歳の子どもの父であるガザ事務所のシャディは、爆弾が投下されて爆音が鳴り響くたびに子どもたちが泣き叫び、彼らを落ち着かせるために必死だったと言います。

「空爆中の緊張状態では時間の経過を遅く感じ、心身ともに疲弊します。そのため、少しでも子どもたちの気を紛らわせようと必死でした。交戦が始まり、外出をしないよう家にいましたが、2日目以降子どもたちも退屈し始めました。外出は危険なため、極力室内で楽しめるよう映画を観せたり、水遊びをさせたりしました。そして爆音が始まると『火事かもしれないね』『空爆ではなくて、外でパーティーしている音かもしれないよ』とユーモアを交えて誤魔化し続けましたが、さすがに11歳の娘は私が嘘を付いていることに気が付いています。彼女は既に何度も空爆を経験していますから。それでも、子ども達に『大丈夫だよ、大丈夫』と言い聞かせるしかありません。他方、6歳の息子は2021年5月の空爆以降、発語に問題を抱えています。今回の空爆の影響も心配です。1歳の息子も以前は怖いもの知らずの活発な子でしたが、今では一人でいることを怖がり、空爆が始まると走り寄ってきました。彼は『ボンボン(アラビア語でタハタハ)』と空爆の音を発することが増えました。」

このように幼少期から空爆を経験することは、子どもたちのPTSD(心的外傷後ストレス障害)にも繋がり、多感な子ども時代の悲痛な経験は、その後の発育や人生観に計り知れない影響をもたらします。もちろん親の子を心配する気持ちも計り知れません。今回の空爆で、55人の子どもが死傷しました。 愛する子どもを失ったご家族の行き場のない悲しみは想像を絶するものです。

爆弾が投下した直後(gaza MAJDI FATHI – AFPより)

停戦から数日経過し、同僚たちは支援対象者である女性100名や農家の男性たち、また女性組合員の安否確認に追われ、睡魔と闘いながら中断された業務の再開に向けて忙殺されていました。長い年月にわたって繰り返される暴力を受けて、積み重なった自身の心の傷に蓋をし、働き続けることで日常を取り戻そうとするように、彼らは休むことを嫌うのです。

私も同僚たちとの気力とエネルギーに鼓舞されています。2007年以降イスラエルに軍事封鎖されたガザに平和と安寧がもたらされるためには、国際社会を含めた政治的解決が不可欠であり、それは容易ではありません。今回は幸いなことに事業関係者の人的な被害や羊の被害などは確認されていませんが、インフラが破壊され、農地なども爆撃を受けたことから、支援対象地域が回復するまでには時間を要することが予想されます。パルシックの畜産事業も、行政や関連省庁から安全面での許可が出るまで再開が困難な活動もあります。

これからもチーム一丸となって冷静かつ辛抱強く、参加者の皆さんや羊の安全に考慮しながら事業を進めていきたいと思います。ガザへの空爆が続く中、パルシックの現地スタッフや、支援をしている小規模農家の皆さん、また女性組合の皆さんの身を案じてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。

*Humanitarian situation in Gaza | Flash Update #4 as of 17:00, 13 May 2023 – occupied Palestinian territory | ReliefWeb(2023年5月13日時点))

(西岸事務所 ガザ事業担当 吉田)

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羊事業1年目終了!パニカムの豊作と羊の飼育 https://www.parcic.org/report/palestine/gaza_livestock/22574/ Tue, 09 May 2023 03:48:45 +0000 https://www.parcic.org/?p=22574 羊事業では、飼料にするためにパニカムというイネ科植物を育てています。この背景には、ガザの畜産農家が通常、羊の飼料をイスラエルからの輸入飼料に頼っており、大きな負担になっていることがあります。またウクライナ紛争の影響もあり世界的な物価上昇と相まって、羊の飼料価格も高騰し、家計をさらに圧迫しているからです。

パニカムの収穫の様子、参加農家が協力して栽培しています

パニカムの豊作を喜ぶ参加者とパルシックスタッフで農業専門家のアブダッラー(右から3人目)

また羊を配付し、参加畜産農家が羊の飼育を正しい方法でできるよう、家畜専門家や獣医が定期的に羊小屋訪問しサポートしています。

子羊の誕生を喜ぶパルシックスタッフで畜産専門家のマフムード。写真は生後2日目

修繕された羊小屋で羊に青草を与えるアル・マワーシ村の参加者のモサブさん

参加者たちは綺麗に建替えられた羊小屋で羊に十分な飼料を与え、毎日羊の健康状態を記録することで愛着が増し、日々の羊の世話を楽しんでいます。2年目の活動は3月から開始しましたが、引き続き参加者の皆さんには楽しみながら羊の世話をして、日常の支えとなることを願っています。

(西岸事務所 吉田)

※この事業は日本NGO無償連携資金協力の助成および皆さまからのご寄付によって実施しています。

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羊事業1年目終了!参加した女性たちの声 https://www.parcic.org/report/palestine/gaza_livestock/22428/ Fri, 14 Apr 2023 03:23:43 +0000 https://www.parcic.org/?p=22428 2022年3月に「ガザ地区ハン・ユニス県における羊の畜産支援」事業を開始し、1年が経過しました。この事業はガザ地区南部のハン・ユニス県で、小規模羊農家の生計向上と女性のエンパワメントを目指しています。

1年目の活動は、同県の2村の羊農家50世帯を対象に、羊小屋の修繕、羊の配付、畜産技術研修などを実施しました。

修繕された羊小屋

また、保守的なガザ地区南部では女性の地位が男性よりも低い傾向にあることから、女性のエンパワメントや社会参加の促進の一助となるように羊農家の女性50名に加えて地域の女性50名、合計100名を対象に、様々な研修を実施しました。ガザ地区で事業実施に奮闘する現地スタッフのタグリードが研修に参加した女性の声を届けてくれたのでご紹介します。

女性向けワークショップの様子。羊の飼育方法や羊の体調管理など幅広く学ぶ

参加者の声  ヌジュドさん(アル・マナーラ村の参加者)

11人の孫の祖母であるヌジュドさんは、15歳で結婚し、現在は夫と8人の子どもと暮らしています。彼女は参加者の中でもひと際目立つ存在です。いつも熱心で、パルシックのスタッフや研修講師にたくさんの質問をしてくれます。

「畜産技術研修で羊の適切な扱い方や、羊の販売に最適な時期など、新しい知識をたくさん学びました。私と夫は仕事を分担し、私が早朝に羊小屋に行ったときは、羊の目や行動を一頭ずつチェックして健康かどうか判断した後、餌をやり、日光浴をさせます。羊の予防接種や餌やり、飼料作物の収穫を飼育記録帳に記入することも私の仕事です。 以前からチーズ作りはしていましたが、研修で習った方法とは異なる方法で作っていました。研修後は、生乳や道具の衛生にも、より一層気を配るようになりました。また、以前は酢を使ってチーズを作っていましたが、レンネット(生物由来の凝固剤)を使うことを新たに学びました。今は羊のミルクが搾乳できない時期なので、UNRWA *から届く粉ミルクでチーズを作ってみようと思っています。 事業に参加する以前は、私はよく義姉の家へ行き、日中はおしゃべりを楽しんでいましたが、今は研修の受講や羊の世話でスケジュールがいっぱいです。時間を有効に使おうと意欲が湧いてきました!」

*国際連合パレスチナ難民救済事業機関。パレスチナ難民への包括的な支援を行う国連機関の名称。

修繕した羊小屋に羊を連れていくヌジュドさん

積極的にチーズ作りに取り組むヌジュドさん

パルシックは、羊の適切な飼育方法やチーズ作りなど実践的な研修に加えて、ジェンダーについて考えるワークショップなど幅広い内容の研修を実施しました。女性たちが事業参加以前よりも積極的になってきたと感じる、とタグリードも喜んでいました。

パルシックのガザ事務所スタッフ全員で記念撮影。左から2番目がタグリード

(ガザ事務所タグリード)

※この事業は日本NGO無償連携資金協力の助成および皆さまからのご寄付によって実施しています。

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ガザで新しい「ひつじ農家支援事業」を開始しました! https://www.parcic.org/report/palestine/gaza_livestock/21448/ Wed, 09 Nov 2022 09:40:00 +0000 https://www.parcic.org/?p=21448 パレスチナのガザ地区では、2018年1月から2022年2月まで、貧困女性世帯を対象に羊の酪農支援を行ってきました。2022年3月からは、その後継事業として、「ガザ地区ハン・ユニス県における羊の畜産事業」を開始しています。

ガザ地区は2007年からイスラエルの軍事封鎖下にあり、人や物の移動が大きく制限されています。加えて、イスラエルとガザの間では数年おきに武力衝突が起きており(昨年5月のガザ空爆のニュースを記憶している方も多いと思います)、物資不足やインフラ等の破壊で、長期的な経済発展が阻まれています。その結果、失業率は高く、人口の約6割は食糧不安の状態にあります。こうした状況の中でパルシックは、畜産事業を通して農家の生計向上や地域の食糧保障に寄与したいと考えています。

本事業の対象者は、小規模の羊農家(所有する雌羊の数が3頭以下)です。畜産の経験があり、意欲が高いものの、羊小屋が老朽化していたり、飼育に不適切な小屋を使用してたり、あるいは畜産に関する十分な知識やスキルがないといった羊農家を対象に、2022年3月から3年間計画で、羊小屋の建替え工事や羊の配付、畜産技術研修の提供、飼料作物の栽培支援などを行います。

スタッフが各家庭の状況をヒアリング

地域としては、ガザ地区のハン・ユニス県にある3つの村(アル・マワーシ村、アル・マナーラ村、アル・カララ村)で、計80世帯を支援する予定です。
(※1年次はアル・マワーシ村とアル・マナーラ村で事業を開始、2年次からアル・カララ村を追加します。)

2022年3月には、アル・マワーシ村とアル・マナーラ村の2村で新事業の説明会を行い、事業への参加希望者を募りました。その後4月から、パルシック職員が希望者の家を実際に訪れて調査し、参加世帯の選定を行いました。

羊小屋の状況も確認します

参加世帯の選定が完了した後、9月末から、羊小屋の建替え工事を行いました。畜産専門家がデザインし、建設業者と綿密に打ち合わせて作った新しい羊小屋はとても評判が良く、参加者たちからも喜びの声が上がっています。

羊小屋建設の様子

羊小屋の完成に合わせて、10月下旬から11月上旬まで、1回目の畜産技術研修を行いました。小規模な羊農家では、家庭の男性・女性、いずれもが飼育に参加するのが一般的です。しかし、家父長制や男性優位の価値観が残るガザでは、女性たちは外出の機会が少なく、畜産に関する研修を受ける機会もほとんどありません。

畜産研修の様子(男性たち)

そこでパルシックは、各世帯から男性・女性1名ずつ研修に参加してもらい、女性も平等に研修が受けられるようにしました。男女を同じ部屋に入れて一緒に研修をすることが文化的に困難であるため、男女それぞれに、時間帯を変えて研修を実施しています。

畜産研修の様子(女性たち)

1回目の畜産技術研修が終了した後、各世帯へ羊の配付を開始しました。今後は、地元の獣医やパルシックの畜産専門家が各羊小屋を巡回しながら、モニタリングや指導を継続していきます。

羊配付の様子

また、世界的に飼料価格が高騰する中、飼育コストを抑えて持続的な畜産を可能にするため、飼料作物の栽培も始めました。近隣の3~7世帯で1つのグループを作り、共同でパニカム(イネ科の植物)を育てています。刈り取った草は、一部は青草のまま使い、残りは干し草にして、草の生えない夏場や厳しい冬のために備蓄する予定です。

パニカムを植える様子

この他にも来年1月には、女性たちを対象に、乳製品作りを学ぶワークショップを計画しています。羊農家の能力向上や生計向上のため、引き続きがんばります!

(西岸事務所 橋村)

※この事業は外務省NGO無償連携資金協力の助成および皆さまからのご寄付によって実施しています。

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