近隣国では次から次へと新型コロナウィルスの感染が発表される中、インドネシアでは感染確認の発表が長い間なされてきませんでした。インドネシアの温暖な気候で感染者が出ないという記事を目にし、気候が似ている近隣国での感染に対する説明は?と思いながら読んでいました。また、2月5日中国本土からの直行便が停止されるまで、武漢からの直行便も就航していて、多くの観光客が押し寄せていたこともあり、インドネシアに感染者がいないことはないと思ったものでした。
3月2日に在マレーシアの日本人を介してインドネシア初の感染者が確認されたと発表されました。あたかも日本人が新型コロナウィルスをインドネシアに持ち込んできたかのような印象で、ここインドネシアで活動する私たちにとっては、大変危惧される出来事でした。首都のジャカルタでは日本人に対する差別があったとの報道もありましたが、個人的に嫌な思いをした経験はありません。ただし、今までならば「出身はどこ?」と聞かれれば、普通に「日本」と答えていたところ、躊躇する気持ちが出てきたのは事実です。日本での感染拡大が報道されていた時期と重なるので「日本。でも、インドネシアに来て長いよ。去年の7月以来帰ってないなぁ。」と、聞かれてもいないのに、最近帰国していないアピールを欠かさなくなりました。
インドネシアにおける初感染者の発表から、感染者も日々増え続け、3月15日、ジョコ・ウィドド大統領から国民に向けて外出自粛要請が出されました。それに続き、翌日の3月16日に中部スラウェシ州の知事からも2週間の外出自粛の要請が出されました。これを受けて、パルシックの事業である子どもの居場所及び女性の生計支援活動を一時中断することになりました。
事業地である中部スラウェシ州パル市では3月の中旬には使い捨てのマスクもアルコール消毒液も入手が困難になっていました。そこで、パルシックは入手可能なもので感染予防を啓発するために、衛生用品(石鹸とタオル)と新型コロナウィルスに関する基礎情報、咳やくしゃみをする時のマナー、正しい手洗いの仕方、相談連絡先などを記載した小冊子を作成し、3村605名の子どもたちや女性たちに配布することにしました。
単に小冊子を配布しただけでは特に子どもたちは読まないだろうと考え、配布時に説明をし、正しい手洗いの仕方を実際に指導していくことにしました。集会行事の自粛要請もあったため、通常であれば村役場などに集まってもらい配布するのですが、戸別訪問をし、配布を担当した現地スタッフはマスクを着用し、ソーシャルディスタンシング(感染拡大を防ぐための物理的距離を取ること)にも配慮しながらの配布でした(実際に子どもや女性たちとしっかり距離を取れていたかは微妙なところです)。
それにしても、日差しが強かったのでスタッフはフードを被ってサングラス掛けていたわけですが、それに加え感染防止のためにマスクをして、とても怪しい人に見えて仕方がないです・・・。
カラワナ村の親子が手洗いの練習をしている様子。動画撮影を意識してか丁寧過ぎ(?!)で、微笑ましい光景です。
これは、ナモ村の女性が手洗いの練習をしている様子です。逆に、スタッフが教えられているようにも見えますが・・・
この衛生用品と小冊子の配布は無事完了しました。全て現地スタッフによって行われました。というのも、中部スラウェシ州政府から外国人の出入りが禁止されたこともあり、私はバリ島に拠点を移し、遠隔からの事業実施を管理しています。現場にいられないことは、村の子どもや女性たちの表情やちょっとした発言も拾うことが出来ず、事業の評価すべき点、課題や改善点などを直接感じ取ることが出来ないことを意味します。やはり、現場の声に耳を傾けながら、提携団体とパルシックの現地スタッフと共に試行錯誤しながら事業を進めていくところがこの仕事の醍醐味でもあるので、非常に辛く残念です。しかし、遠隔で指揮をとりながらではありますが、現地スタッフによる事業の実施が任されており、彼らが大きく成長できる機会でもあるので、悪いことばかりではないと思っています。
インドネシアで初感染が確認されて早くも2か月近くが経ち、4月30日現在、10,118名の感染が確認され、792名が亡くなりました。事業地である中部スラウェシ州では、47名の感染が確認され、3名が亡くなっています。しかし、ジャカルタでの新型コロナウィルスによる3月の死亡者は95名と発表されていますが、ジャカルタ公園・森林管理局(Dinas Pertamanan dan Hutan Kota Provinsi DKI Jakarta)によると、感染または感染の疑いによる死亡者が639名に上ったそうで、昨年の3月と比較すると、約1,300名も死亡者が多いそうです。感染の確認がされずに亡くなった方が多く、蔓延しているものと思われます。
新型コロナウィルスの感染が拡大する中、現在も私たちに何ができるか考えています。治療薬がなく、重症化した場合の高い致死率、無症状感染者からの感染、再陽性になる事例、世界経済の停滞など、不安だらけの時期ではあります。早くこの事態が収束に向かい、安心して暮らせる生活へ戻れることを切に願っています。
(スラウェシ事務所 飯田彰)
※この事業はジャパン・プラットフォームの助成とみなさまからのご寄付で実施しています。